■ 嵐が明けたら 前編

カカシ先生の家で敵の襲撃を受け、一夜を過ごしたナルトとサクラ ナルトが男を見せる!?台風と秘伝忍術の続編

「ん・・・」


お味噌汁のいいにおいがする・・・


あれ・・・ベッドじゃない?


眠い目をこすり、肩に当たる温かいものを見ると、至近距離にナルトの寝顔があって一気に目が覚める。



ガンッ
「いたっ!」

後ろの壁に頭を打ち付けた。


「え?なにコレ・・・なんで床に・・・。それにナルト・・・?いたた・・・」

私はパニックになった。
ぶつけた後頭部をさする。

「あ、起きた?」
「カカシ先生!」

似合わないエプロン姿のカカシ先生がドアから顔を出す。


えーと・・・。

「戻って来たら気持ち良さそうに寝てるから起こしづらくてさ」


あ・・・。
ここはカカシ先生のお家だ。

窓を鳴らす強風にハッとする。

少しずつ状況が飲み込めてきて昨夜の事を思い出した。


「ナルト起こしておいで。ご飯出来たから」
「は、はい」


カカシ先生がご飯?
まぁ、何でも出来ちゃう人だもんね。
いつもはやらないだけだろう。

「ナルト、起きて」
「んー・・・」

隣で幸せそうな顔で寝ているナルト。

寝顔はまだ幼い。

う・・・。

どうしよう・・・にやけちゃうよ。
こんな近い距離で寝顔が見られるなんて・・・。

男の子はズルい。

いつもは凛々しくてカッコ良くて、たまにドキッとするくらい大人っぽく見えるのに。
こういう時は幼い顔して可愛いなんてズル過ぎる。

昨日ナルトの前で弱音を吐いてしまった事を思い出す。

ナルトは優しく抱きしめてくれた。
弱くて情けない、本当の私でもナルトは受け止めてくれる。

同じように私もナルトを支えたい。

幼い顔して眠る目の前の少年の奥底に、飛んでもないものが潜んでいる。

「こんなに穏やかな顔してると九尾がいるなんて思えないなぁ・・・」
私はナルトの頬を撫でた。

「お前たち、本当に仲良いね」
「うわっ!」

超近距離にカカシ先生の顔があった。
私はナルトから離れる。

「別に普通でしょ!いつものことじゃない!」
「いつも・・・?先生の知らないところでお前たち、こんなに仲良くしてたの?」
「・・・そうじゃなくて!もう!先生!」
カカシ先生はニヤニヤしている。

「ずるいや、三人で。僕も入れてよ」
「サイ!」

ドアからサイがひょっこりと顔を出す。

二人でニヤニヤしていて腹が立つ。


***
ナルトをひっぱたいて起こし、リビングに向かう。


はぁ・・・
こんなに強く当たりたくないのになぁ・・・。

いつからなのか、なんでなのかそういう位置関係が成り立ってしまっている。


私だってナルトに優しく接したいのに。

カカシ先生の作ってくれた朝ご飯をナルトとサイと四人で食べる。
かなり美味しい。

「カカシ先生、ご飯美味しい。なんでいつも作らないの?」
「そりゃどーも。お代わりあるからね。時間もないしいつもはやらないよ」

「そっか。そうよね」


そういえば、サイはナルトと私の代わりに任務済ませてくれたんだった。

サイの方を見ると目が合う。
「サイ、昨日は任務代わりに行ってくれてありがとう」
「どういたしまして」とサイが笑う。


「で、昨日の夜のは結局、なんだったんてば?」
お代わりのご飯をよそいながらナルトがカカシ先生に訊ねる。

「俺の張った結界で入ってこなかったみたいだね」
「やっぱり先生だったのか」
「さすがね」
「当たり前デショ。可愛いサクラの為だもん」
「先生・・・」
カカシ先生の笑顔に癒される。

「で、何か分かったのか?」
ナルトの言葉にカカシ先生は眉間にしわを寄せた。

「・・・外部からの侵入だ」
「は!?」
イスから立ち上がるナルト。

「ってそりゃそうか・・・。こんな時なら入り込みやすいもんな」
「台風の対応に気を取られ過ぎたね。外への警戒が甘くなっていたんだ」
悲しげな顔をするカカシ先生。


「こういう時だからこそ気を配らないといけないのに、ごめんね、サクラ。怖い思いさせて申し訳ない」

「ヤダ・・・。やめてよ、先生。先生たちのせいじゃないわ。みんな里の為に対応していたんだもの。里のみんなが眠っている間も必死で対応していてくれたんだわ。それに、ナルトが守ってくれたし」
ナルトの方を見ると二カッと笑ってくれた。

「そう言えば、なんであんなに仲良さげに寝てたんだ?」
「「へ!?」」
ビックリして声をあげたらナルトまで声をあげていた。


恥ずかしい・・・。
ナルトの方見られないよ。


「次は僕も一緒に寝るよ」
「「いらんわ!!」」
サイが意味不明なことを言う。


「・・・冗談はさておき。今日の予定は?」
めずらしくナルトが切り返す。


「昨晩の失態も含めて、五代目に呼ばれています・・・」
ガックリ肩を落とすカカシ先生。

「それって俺たちも?」
「そ」

確かに昨日の事は綱手様に報告しなきゃだよね。


「先に行ってるヤマト達は今頃怒られてるんだろうなぁ。やだなぁ・・・」


***
外に出ると風は強いけれど雨は止んでいた。

「先生、台風ってどうなるの?」
私は隣を歩く先生を見上げる。

「また夕方から荒れるみたいだよ」
「・・・そう」

話しているうちに火影の執務室前に着いた。
中から綱手様の怒鳴り声がする。

「うわ・・・入りたくない」
「先生・・・」
うんざりした顔のカカシ先生に私は苦笑いしてしまう。

気合を入れて先生がドアをノックして中に入る。
「失礼しまー・・・」
「カカシか!!」
「はいっ!!!!」
入った途端に綱手様に呼ばれ、勢いよく返事をする先生。

「先輩・・・」
ヤマト隊長が涙目でこっちを見る。

「も、申し訳ありませんでした」
「サクラは!!サクラは無事なのか!?」
先生の後ろにいた私は慌てて前に出る。


「綱手様!!私は大丈夫です。先生たちを責めないでください」
「・・・まぁ、台風被害も食い止めてくれたわけだしな」
直立不動だったヤマト隊長や上忍の人たちがホッとしている。


「よし、お前たちは決壊した橋を直して来い」
「「「はいっ!!!!」」」
みなさんは嬉しそうにその場を離れる。

「ヤマトは残れ」
「えっ!?」
綱手様に掴まれて青い顔をするヤマト隊長。
カカシ先生の隣に連れ戻される。

「先輩、遅いじゃないですかぁ・・・」
「ごめんごめん」
なんか、良く見るやり取りだな、先生とヤマト隊長のこのやり取り。
先生ったら全く申し訳なさそうにしないんだもの。


「ナルトとサクラは私の事務処理を手伝え。台風被害の報告書が朝からたくさん上がって来ている」
「えーー!?」


「・・・何だ、ナルト。文句あるのか?」
「なんでもないッス!!」
後ろを向いていた綱手様がゆっくりと振り返り睨むので、怯えまくるナルト。

そんなわけで、私とナルトはシズネさんと一緒に報告書を片づけ始めた。

綱手様とカカシ先生とヤマト隊長は奥にある会議室にこもってしまった。

「あー!!もう!!書類、多過ぎだってばよ!!」
報告書を天井に放り投げるナルト。
「あ、こら!!怒られるわよ。まったく・・・」
「だってぇー」
「言ってやって!!書類溜めるなって」
涙目のシズネさん。
毎日の苦労がうかがえる。


「毎日やってるシズネさんに悪いでしょうが」
「・・・はい」
「ほら、書類拾うわよ」
「うん」

確かに投げ出したくなるような量の報告書がまだまだ山積みで、いつ作業が終わるのかも分からない。
ナルトと二人でしゃがんで書類を拾う。


すると執務室のドアをノックする音が聞こえた。


「失礼します。お、サクラ」
「シカマル」
私は顔を上げる。


「ナルトもいたのか」
「いるわい」
ふてくされるナルト。

「五代目は?」
「綱手様なら奥の会議室にいらっしゃるけど・・・」
「今呼んで来るから少し待ってて」
「あ、カカシ先生とヤマト隊長も一緒ッスよね?」
「ええ」
「じゃあ俺が行きます」
シカマルはシズネさんと奥に進んでいく。

「なんだろう」
「さぁ?」
顔を見合わせる私たち。


「あ、サクラ」
「ん?」
シカマルが戻ってきた。


「もう少しだから」
「え?あ・・・うん」
シカマルはその一言だけ言うと会議室に入って行った。


シカマルの目はいつになく真剣だった。
いつもひょうひょうとしている分、真剣な顔をされるとドキッとしてしまう。


・・・いの、ごめん。
ちょっとカッコイイとか思ってしまった。

「ムカつく!!」
「え!?」
ニヤニヤしていたらナルトが声を上げたので驚いてしまった。

「あーいうやり方でサクラちゃんを守ることって俺には出来ないもん・・・」
あら・・・。
めずらしく落ち込んでる。

「なに、ヤキモチ?」
「だって!!」
いじけるナルトが可愛い。

素直過ぎよ、ナルト。
嬉しくなってしまう。

「シカマルは誰にでもああでしょうが」
「そうだとしてもヤダっ!!」
すねちゃった・・・。

そんな態度さえ嬉しいとか、私も相当だなぁ。

「・・・昨日、ありがとうって伝えたじゃない」
「覚えてんの!?」
ガバッと近寄ってくる。


「ちょ、近いってば!!恥ずかしいから忘れてよ」
体を押し返す。


「サクラちゃん」
「なによ?」


「もっと、頼ってくれ。俺を」 「・・・うん。ありがと。でももう充分よ」
「もっとだ」
「・・・バカ」
二カッと笑うナルトにつられて笑ってしまう。


***
夕方になって会議室の扉がやっと開いた。

「サクラ、ナルト」
「はい」
ヤマト隊長に呼ばれる。
なんだか緊張して来た。

中には綱手様、カカシ先生、ヤマト隊長、シカマルというすごい顔ぶれがそろっている。

「解析結果が出た。犯人までたどり着けそうだ」
「本当ですか!?」
綱手様の言葉に思わず立ち上がってしまった。

「一気に叩く」

ナルトと顔を見合わせ、ホッとする。
「私たちは!?」
「ナルトの家で待機だ」
「「え!?」」
喜んだのもつかの間。


「・・・参加させてもらえないんですか?」
「お前たちが出て来るほどの準備は整っていない」

「・・・分かりました」
ここで騒いでもなんにもならないのは昨日の今日で分かっている。
だから諦めるしかない。


とは言いつつもすぐには納得出来ず、私は拳を握って立ち尽くしていた。


「サクラ、行こう」
「・・・はい」
カカシ先生に促されて執務室を出る。


***
私とナルトはカカシ先生の家に戻り、荷物をまとめていた。
ふいにチャイムが鳴る。
誰だろう・・・。


三人で不安に思い、カカシ先生が用心深くドアに近づく。

「なんだ」
カカシ先生の気の抜けた声が聞こえる。


「よ」
「シカマルかよっ。驚かすなってば」
「わりーな。ちょっとサクラに届けものだ」
「私に?」

シカマルが可愛い封筒を差し出す。

「これ・・・」
シカマルを見上げる。


「いのからだ」
「いの!?」

「顔見ないから心配で俺のところに来たんだと。んで、詳しい事は話せないから『サクラは今、任務で里の外にいる』って言ってある。超不満そうな顔してたけどな」
半笑いのシカマル。

「『あっそ。まぁいいわ。じゃあこれ渡しておいて。』とか俺が嘘つくのを見抜いていたらしく、手紙を渡して来た」
「いの・・・」
手紙を持つ指に力が入る。

私は封筒から手紙を出して読む。

『サクラへ シカマルはサクラがどこにいるのか教えてくれないだろうし、適当なこと言って話にならないからこの手紙を書いています。何か起きているのよね。でもシカマルの感じからサクラが元気なのは分かるからまぁいいわ。とりあえず任務が終わったらすぐに連絡すること。 いの』

そうだ。
自分の気持ちに正直になれたってまだいのに言ってない。
伝えなきゃ。

だから、この事件が片付いたらいのに会いに行こう。

じわりと目元がぼやけて、気付いたら三人とも心配そうに私を見ていた。
「シカマル、ありがと」
「おう」


***
カカシ先生に見送られてナルトの家に向かった。
良く考えたらナルトの家に行ったことは何度かあるけれど、家に上がるのは初めてだ。


「お、お邪魔しまーす」
あら・・・。
意外とキレイ。

「サクラちゃん、荷物貸して。こっち置くから」
「ありがとう」

私は窓の外を見る。
「あ、降って来たわね」
「夕方から荒れるって言ってたもんね」


次の瞬間、ものすごい稲光が走った。
「きゃ!!」
「サクラちゃん!!」
しゃがみ込む私に近寄るナルト。


「ビ、ビックリした・・・」
「雷まで鳴るなんて、今日はヤバそうだな・・・」
二人で窓の外を見上げた。

「今日は俺が夕飯作るからサクラちゃんはのんびりしててよ」
「え、そんなのダメよ。手伝うから一緒に作りましょ」
「いいの?」
「だって何が出て来るか心配だもの」
「ちゃんと出来るってばよ。俺、ずっと一人暮らしなんだもん」
二カッと笑うナルト。


笑っているけれど、16歳でそのセリフはすごく寂しい。


「いいから。一緒に作った方が楽しいじゃない」
「うん!!」
嬉しそうに笑うナルトにホッとした。

出来あがったご飯を向かい合って食べる。 なんか・・・照れちゃうな。 ナルトはそんなこと気にしてないだろうけど。 「美味い!!」ってずっと言いながらご飯食べてるもん。

「みんな、大丈夫かしら・・・」
「今日も寝ずに対応してるのかな・・・」
早く台風も過ぎ去ってくれればいいのに。


たわいもない話をしながらだと時間が経つのは早い。

「サクラちゃん、風呂、先にどーぞ」
「あ、うん」
着替えを持ってお風呂場に向かう。


「・・・のぞかないでよ?」
「そ、そんなことしないってばよ!!」
「冗談よ」
「・・・食器片付けます」


ふふ。
なんか意地悪したくなっちゃうのよね、ナルト見てると。


***
湯船に浸かるとホッとする。

「二人きり・・・だなぁ」
つい口に出してしまった。


不謹慎だとは思いつつもやっぱり意識してしまう。
だって、ナルトへの気持ちに気付いたのは昨日なのだ。


「好きな人」って表現するのも照れくさいけど、この際使おう。
「好きな人」と昨日も今日も二人きりだなんて、すごいことよね。

って、やっぱ不謹慎かな・・・。
お父さん、お母さんゴメン。
少しの間だけ、許して下さい。

交代でナルトがお風呂に入りに行くとパックンが現れる。

「パックン!!」
「サクラ、カカシから伝言だ」
「こんな天気なのに・・・ありがとう」
パックンから手紙を受け取る。


『サクラ、本当にごめん。今日もそっちに行けそうにない。ナルト、サクラを頼む。』


先生ったら本当に律義ね。
台風対策で手がいっぱいなのは分かっているからいいのに。


「パックン、ご飯食べてく?」
パックンは嬉しそうに尻尾を振った。

「サクラちゃんどうかした?」
ナルトがお風呂から上がったらしい。
台所にいるとリビングの様子は見えない。

「パックンがカカシ先生からの伝言持って来てくれたの。カカシ先生、今日も戻って来られないみたい」
「え?あ、そっか。うちに来る気だったのか」
ナルトが一人で何か納得している。

私はパックンにご飯を出してあげた。
食べてる仕草が可愛くてしゃがみ込んで見入ってしまう。

「ん?どうかした?」
「あ、いや。今日は最初から最後までサクラちゃんと二人きりだからどうしようって思ってて・・・」


最後の方が聞き取れない。
ナルトも二人きりの状況を気にしていたんだ・・・。

どうしよう・・・。
恥ずかしくて台所から出られなくなっちゃった。


「カ、カカシ先生戻って来ないわよ」


「・・・き、緊張して来たってば」
「や、やめてよ!!そーいうことは心の中で思っておくことでしょ!!」
ナルトの言葉に恥ずかしくなり顔を上げてリビングの方を見る。

と、すぐそこにナルトが立っていた。


「ごめん、つい・・・」
そう言うナルトと目が合う。

「って!!なんで上に何も着てないのよ!!!!」
「え、あ、ごめん!!」
着替えを取りに慌てて部屋に向かうナルト。

私は恥ずかしいやら緊張やらでパニック寸前だった。

Tシャツを着たナルトが戻ってくる。

「あ、の。水を下さい」
「・・・はい」


「ごめん、いつも風呂上がると暑いからスウェットしかはいてなくて・・・さ」
「もういいわよ」

「おい、お前ら。二人で盛り上がりおって・・・。もう帰るけど、変なことすんなよ」
「へ、変なことって何よ!!!!」
「そうだってば!!」
「はいはい。もう好きにしてくれ。じゃあな」
ご飯をぺろりと平らげてパックンは消えた。

ちょっと・・・。
この空気、どうしてくれんのよー!!


「ナルト!!」
「はいっ!!」
「寝るわよ」
「お、おう!!」


***
お互い無言で歯を磨いたり寝る支度を済ませて、寝室に向かう。

「って言ってもさ、うちにはカカシ先生んちみたいに広くもないし、部屋がいくつもないんだってば」

そりゃそうよね・・・。
その辺のこと、綱手様たちは考えてくれてなかったみたいね。
仕方ないけど・・・。

「サクラちゃん、ベッド使ってよ」 「ナルトは?」
「俺は床で・・・」
「ダメよ!!」
「へ?」


「昨日だって床に座って寝たのよ?身体、疲れてるでしょ。だから私が・・・」
「それは絶対にダメだってばよ!!サクラちゃんを床になんて寝かせられない!!」
「大丈夫よ」
「ダメだってば!!」


お互いににらみ合う。
らちが明かないってのはこういうことを言うのよね。

「・・・分かった」
私の言葉にホッと息をつくナルト。

「こうしましょ。ナルトは左。私は右」
「はい!?」
「ちょっと狭いけど床に寝るよりはマシよ」
「ちょ!!そりゃマズいよ!!」
「なんでよ」
私はナルトを見上げる。


「な、なんでって・・・同じベッドはマズいってばよ」

とかなんとか、ゴニョゴニョ言ってるけど。
このままじゃずっと両者譲らずで夜が明けてしまう。

「何よ、イヤなの?私と一緒のベッド」
「へ!?滅相もない!!嬉し過ぎて・・・!!って、何言ってんだってば、俺は!!」
あわあわしているナルト。
そんなナルトを見ているとちょっと面白くなって来た。
しかも嬉しい・・・。


「じゃあ問題ないじゃない。ほら、寝るわよ」
私はベッドに入る。

う、わ・・・。
いつもナルトが寝てるベッドなんだから当たり前なんだけど、すぐそばにナルトがいるみたいに感じる。

あんな軽口叩いたけど、私だって内心はすごいドキドキしているのだ。
ナルトに背を向けるように布団をかぶる。

最初はオロオロしていたナルトだけど、数分悩んで観念したらしく大きくため息をついて電気を消した。

「・・・失礼シマス」


なんでカタコトなのよ。

それにしても・・・
やっぱり一人用のベッドに二人は狭い。
身体痛くなりそう・・・。
って、変な緊張感があるからってのもあるんだけど。


動きたい・・・けど、寝返り打ったらナルトの方を向かなきゃいけないし・・・。
上を向くのだってなぜかイケナイ気がする。


どうやらナルトも同じらしい。
動きたいけど動けないみたいで、モゾモゾしている。

「ひゃ!!」
「うわ!!」

って背中当たったし!!!!


「「・・・・・・」」

ベッドのギリギリ端に寄る。


うーーーー。
落ちそう・・・。


意識し過ぎなのは分かっているんだけど、これはもうどうしようもないじゃないのー!!

しかも・・・寒い。


***
眼が冴えて眠れない・・・。
ベッドに入ってからどれくらい経ったんだろう。



「・・・寝た?」
突然声を掛けられてビクッとしてしまう。



「・・・起きてるわよ」

真っ暗だからか音が良く聞こえる・・・気がする。
目が見えないと他の器官が鋭くなるっていうもんね。

「サクラちゃん、ベッドから落ちそうじゃない?」
「・・・うん」


「俺も。あの・・・さ」
「・・・うん」


「もうちょっと・・・寄らない?」



「・・・うん」



「てゆーか・・・さ。そっち向いても・・・イイ?」


「・・・うん」

ナルトが動き出す。

気配がするのと同時に背中が温かくなって来た。

私も少し後ろにさがる。
てゆーか、私、「うん」しか言ってないよ!!

ナルトがこっちを向いている。
視線を感じる。

ナルト、今何を考えているんだろう。

「サクラちゃん」
「な、に?」
いつもより低い声で呼ばれる。

ヤダ・・・ドキドキして来た。


「こっち、向いてくれってば」
「な、なんで・・・よ」
「なんとなく」

なんとなくって・・・。
いつもよりも低い声につい、言うとおりにしてしまう。

身体の向きを変える。
わ・・・楽だ。


し、心臓の音すごいんですけど!!
ナルトに聞こえたりしないよね。

暗くて顔が見えないのが救いだった。
見えてたら多分、気ぃ失うわ。

そんな気持ちとは反対に私はなぜかナルトに手を伸ばしてしまう。

温かいものに触れた。
「サ、サクラちゃん!?」
触れたのはナルトの頬だった。

「どうしたんだってば・・・」
困っているナルト。

「ナルト・・・私ね、昨日のナルトとカカシ先生の話、聞いちゃったの」
「え!?」
ナルトは心底驚いていた。

「だって・・・気配なんて全くしなかったってばよ」
「二人とも私の事ナメ過ぎよ」
「・・・ごめん」
ナルトの頬は温かい。

「全部、聞いたのか」
私は黙って頷く。

「狙われているのは、私ね?」

ため息をつくナルト。
「今さら隠しても無駄だな。そう・・・。狙われているのは春野家というより、サクラちゃんだ」
「・・・そう」
手をおろす。

「私のせいでみんなは・・・」
「違う!!悪いのはサクラちゃんじゃなく、犯人だろ」
「でも脅迫状のせいでお父さんとお母さんは隔離され、綱手様やカカシ先生、ヤマト隊長、サイ、シカマルに迷惑かけてるわ」
「・・・サクラちゃん!!」
ナルトは怒っているようだった。

「そして、ナルト。あんたには迷惑掛けまくりだわ。ごめんね」
「いいんだってば!!頼られて嬉しいって言っただろ」
「うん・・・」

心の中で思っていたことを口にしてしまった。
泣くのを我慢できないのはなぜだろう。
みんなに迷惑を掛けてしまった自分の不甲斐なさが悔しくて悲しい。

「そんな、苦しそうに泣くなよ。らしくない」
ナルトの言葉に驚く。

「え・・・見えるの?」
「うん。俺は暗くても見えるよ」
確かに目も慣れて来たけれど・・・。



まさか泣いてるのを気付かれていたなんて。

「そんな顔されるとどうしたらいいのか分かんなくなるってば・・・」
そういいながら涙をぬぐってなでてくれる。

なぜか思い切り抱きついてわんわん泣きたくなってしまう。


って、わんわん泣くなんて私らしくないしするわけないんだけど、自分の中にそういう気持ちがあったんだなぁとか、意外に乙女な発想も出来たんだとか苦笑してしまった。

次の瞬間、ふわっと身体が温かくなったと思ったら私はナルトの腕の中にいた。

「寂しくて悲しいなら泣けえばいい。昨日も思ったけど、サクラちゃんは我慢し過ぎだ。堪えながら泣くなんて辛過ぎる。なんでちゃんと泣かないんだってば・・・」

ナルトは苦しそうに言うと私を抱きしめた。

抱きしめられてビックリしたと思ったけれど、温かさが心地良くて、ナルトの言葉が優しくて、恥ずかしいとかドキドキとか、それ以上にすごく安心した。
ナルトが受け止めてくれると分かって堪えていたものが溢れるように、私は泣いてしまった。


***
ナルトは私をずっと抱きしめていてくれた。
どのくらい時間が経ったのか・・・。
落ちついてくると、込み上げてくる感情があって、ナルトの背に腕を回したくなってしまう。

どうしよう・・・
いいかな・・・

てゆーか、静かだからナルトは寝てしまったのかもしれない。
目の前にはナルトの胸がある。
体勢的に顔は見えない。

胸の前にある腕を広げてナルトの背に回す。

ドキドキする・・・。

わ・・・
こんなに背中広かったっけ・・・?

ホント、男の子はズルイ。
どんどん成長してカッコ良くなっていってしまう。

それに比べて私ときたら・・・。

胸ってもう成長しないのかなぁ・・・
って、泣いてスッキリしたからなのかすごく冷静だわ。

それにしても、抱き合うことがこんなに心地良いなんて知らなかった。
相手の温かさや重みが気持ち良くて、背に回した腕に力を込めたくなる。

そう言えばこの間何かに「人は抱き合うとストレスが大幅に減少する」って書いてあったのを見たような・・・。

「サ、サクラちゃん・・・」
「ん、起しちゃった?」
「いや・・・寝てないってばよ。てゆーか、寝れるわけがない」
ナルトが弱々しい声で言う。


「どうかしたの?」
「あんまりギューギューされるとですね・・・」
「?」
私は顔を上げてナルトを見ようとしたのだけれど、ナルトは真っ赤な顔をしていて目を合わせない。

そう言えば、ナルトは私の事どう思っているんだろう。

突然、そんなことを思ってしまった。

「好き」って・・・言ってくれたことはあるけれど、それはもう子どもの頃の話だし。
最近は昔みたいにそういう事を軽々しく口にはしない。
当たり前の事だけれど。

・・・私がいつも冷たいから醒めちゃったとか!?
それとも好きだって言ってくれていたのは子供の時だけの話!?
ウソ・・・ヤダ!!

「ナルト!!」
「は、はい!!」
こっちを向こうとしないナルトの顔を両手で掴んでこちらに向ける。


「私の事、どう思ってんの?」
「は!?突然なんだってばよ!?」
驚いたせいで私を見たけれど、すぐに視線が泳ぐ。

「こら、答えなさい」
「一体何だって今そんな事!!」

「だって・・・!!」

「この状況で・・・ズルイってばよ」
「え?」
ナルトの意外な言葉に驚く。

「そんなん・・・知ってるだろ」
そう言って視線を逸らすナルトにドキッとしてしまう。

「こんな状況の時にそれを俺に言わせるなんて、ズルイってばよ!!期待しちまう・・・」
「ナルト・・・」

自分の心音なのか、ナルトの心音なのか分からない。
分からないけれどドキドキとすごい大きな音が聞こえる。


今思えば私はちょっと気持ちが不安定だったんだと思う。
そんなこと、このタイミングで聞く必要なかったんだ。

気持ちが不安定だから、ナルトに好かれているんだって分かりたかったんだと思う。
苦しげな表情のナルトと目が合う。
こんな顔、見たことない。

切ない表情に惹き付けられてしまい、目が逸らせない。

「サクラちゃん」

私は無言でナルトを見上げる。


「俺は・・・サクラちゃんが好きだ」
ナルトが手を伸ばし、私の頬に触れる。


反対側の手で腰を掴まれて引っ張られナルトと密着する。
「ちょ・・・ナルト!!」

ナルトの気持ちを聞きたいと言ったのは確かに私だ。
言ったけれど・・・。

こんなにドキドキし過ぎるなんて、どうしたらいいの!?

ナルトの胸を力いっぱい押し返してもビクともしない。
私の怪力はどこへ行ったのか・・・。

後編に続く

−END−



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