■ 台風と秘伝忍術

大型の台風が接近する中、木の葉の里に脅迫状が届く。蒼と翆の続編

「任務終わってないのに召集なんて何かあったのか?」
「いや、僕にも分からないよ」

ヤマト隊長からの連絡に俺たち三人は困惑していた。


「とにかく急ぎましょ。何だか雲行きがあやしいし」
空はどんよりと曇ってきていた。

サクラちゃんの言葉にうなずき、スピードを上げる。


***
「ヤマト隊長!」
「お」

「遅くなりました」
「いや、任務中の二人を呼んで来てって無茶言ったんだから仕方ないよ」
「すぐに見つけたんですけど、色々ありました」
「色々って?」
「あー!もう、いいから!」
ヤマト隊長とサイのやり取りに入るサクラちゃん。

「で、なにがあったんだってばよ?」
「呼んでおいてすまないんだが、僕にも詳しい事はわからないんだ」
「「「え?」」」
「とりあえず里に戻るよ。綱手様のところに行って話を聞こう」

「任務はどうするんですか?」
「この任務以上に重要な事らしい・・・だから一旦戻るんだ」
「?」
俺たちは顔を見合わせる。


***

里に戻り、火影の執務部屋に向かう。
部屋にはカカシ先生とシカマルもいた。

「おぉ、戻って来たか!」
「綱手様!」
「一体何事だってばよ!」

ばあちゃんとカカシ先生、シカマルは神妙な顔をして俺たちを見ている。

「任務中なのにすまなかったな」
「い、いえ・・・」
サクラちゃんが答える。

「何なんだ?この重々しい空気は・・・」
「カカシさんとシカマルがいるってことは何か事件でも起きたのかもね」

「サクラ」
「は、はい!」

「落ち着いて聞くんだ」
「え?」
ばあちゃんが椅子から立ち上がる。

「何者かが春野家を狙っている」
「・・・どういう事ですか?」

「春野に伝わる秘伝忍術を何者かが狙っているという情報が暗部から持ち込まれた」
「春野に伝わる秘伝忍術!?なんだってば、ソレ!」
「は、初耳です」

「そ。誰も知らない」
「へ?」
カカシ先生が口を開く。

「その忍術は存在事態が秘密なんだよ。本当は代々春野の当主にしか伝えられない。あと知ってるのは里の上層部ね」
「何でカカシ先生は知ってるんだってばよ?」

「カカシは昔、同じ様な事態が起きたときに暗部にいたから任務にあたっていたんだよ」
「ちなみに僕もね」
「ヤマト隊長もですか?」
うなずくヤマト隊長。

「サクラたちが生まれてすぐくらいかな・・・。当時、春野の当主だったサクラのおばあさんを警護したんだ」
「おばあちゃんを・・・」
「その時は何事もなく解決出来たんですね」
「そうだ。すぐに犯人を特定する事が出来た」

少しの間、静かになる。

「今回は今の当主であるサクラの父親の所に脅迫状が送られてきた。秘伝忍術を渡さなければ一族を襲うとな・・・」
「今、父と母は・・・」
「心配ないよ、サクラ。ご両親はすでに木ノ葉の特別警護区域にある施設にいる」
「そうですか」
カカシ先生の言葉に安心した様子のサクラちゃん。

「そこでだ。第七班はサクラの警護にあたれ」
「え!?」
「サイとヤマトはナルトとサクラの任務を代わりに済ませ、戻り次第警護にあたるように」
「分かりました」
「了解しました」

「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「何だ、サクラ」

「私は中忍です。自分の事くらい自分で守れます!」
「そうはいかん!」
「綱手様!私は大丈夫です!」


「サクラ。気持ちは分かるけどサクラは春野の一人娘だ。確実に狙われる。今回は敵が何者なのかも、どんな手を使って来るかも分からない。だから七班でサクラを守る」
「カカシ先生・・・」

「サクラ、今回はおとなしく守られておけ。敵の事が分かったらお前にも動いてもらう」
シカマルが歩み寄って肩を叩く。
うつむくサクラちゃん。

「あ、の。俺もサクラちゃんの警護か?」
「そうだ。ナルトを一番傍に付ける。しっかりやれ」
「お、おぉ!やってやるってばよ!サクラちゃん、俺に任せろ!」
「ナルト・・・」
サクラちゃんは俺を見て笑ってくれた。


「雨が降り出したな。水の国で大型の台風が発生したって情報が入ってる。ヤマト隊長とサイは早いとこ任務を片付けて来て欲しい」
「分かった」
「すぐに出られるよ」
シカマルはうなずく。

「数時間後には木ノ葉にも嵐が来る。そうなると、俺たちも里の台風対策に人員が割かれる。春野への脅迫とサクラの警護は一握りの忍しか知らない事だからな」
「サクラを守ることを表立って優先出来ないわけだね」
「あぁ」

「そんな中で俺とナルトはなにがあってもサクラの警護についていいって事?」
「はい。そうして下さい。なるべくカカシ先生もサクラの警護から外れないように話をつけます。でも台風の影響がどうなるか分らないからハッキリとは言えません」

「そうだな。嵐が来たら里を守るためにカカシとヤマトの忍術は必要になるだろう。だからナルト!」
「お、おぉ!」
「お前だけは絶対にサクラから離れるな。なにがあってもサクラの警護だ」
「分かったってばよ!」

当たり前だ!
俺がサクラちゃんを守る。

「サクラとナルトはカカシの家で待機だ」
「「カカシ先生の家!?」」
「サクラの家はもちろん、ここも相手に分かりやすい。そうなると誰かの家に隠れるのが

俺たちが里に戻るまでに色々考えられていたんだな・・・。

「ってなわけで、ひとまずサクラの家とナルトの家に向かうよ。荷物取ってこないとね」
「はい」
「了解だってば」

「よし。では全員任務につけ!」


***
小雨の中、俺はサクラちゃんとカカシ先生と歩いている。

「雨、これから強くなるのか?」
「たぶんね。かなり大型の台風らしいよ」

「カカシ先生?」
「何?サクラ」

「何日くらいこのままなんですか?」
「うーん。犯人が見つかって捕まえるまでだね」
「・・・そうですよね」

「サクラちゃん?」
またうつむいてしまった顔をのぞき込む。

「あー!もういいや!」
「へ?」
「へこんでたって意味ないもんね!」
「おぉ!サクラちゃん!」
サクラちゃんは元気になったようだ。

そんな風に話をしているうちにサクラちゃんの家に着いた。

「ただいま・・・って誰もいない・・・か」
「サクラ、荷物まとめておいで」
「はい。少し待っててください」


すでに警護は始まってるんだよな?
カカシ先生と注意深く辺りに気を配る。

「お待たせ」
数分してサクラちゃんが戻ってくる。

「次はナルトんちね」
「おぅ」


***
俺の家にも寄って、夕飯の買い出しをしてカカシ先生の家にたどり着く。


「うわ・・・予想はしていたけど、見事に何もないわね」

カカシ先生の部屋は必要最低限の家具と電化製品しか置いていないシンプルな部屋だった。

「あんまり帰ってこないからね」
「そっか、任務で外にいることの方が多いわよね」
「そういう事」

「ナルト、買って来た材料を冷蔵庫に入れるの手伝って?」
「はーい」


「冷蔵庫の中も予想通りだってばよ」
「色々買ってきて正解だったわね」
「カカシ先生は毎日何を食べてんだ?」


サクラちゃんが夕飯の支度をすると言ってくれたので、俺とカカシ先生は今後の事を話し合っていた。

外は徐々に風と雨が強くなる。
カカシ先生が台風対策に駆り出されるのは明らかな状況だった。


俺は一人でもサクラちゃんを守る。
犯人がここに現れるという最悪の状況も考えないといけない。

万が一、戦闘になった時の集合場所や合言葉、連絡方法も決めた。

「ご飯出来たわよ」
「待ってました!」

ダイニングに向かうと美味しそうな料理がたくさん並んでいた。

「おぉ!サクラちゃんスゲー!」
「二人ともいつもろくなもの食べてないでしょ?たまには和食でしっかりご飯食べなさい」
「やるなー、サクラ」
「これくらいみんな出来るわよ」
「いや、意外だった」
カカシ先生は心底感心していた。

「食べてから言ってよ、そういうのは。ほら、冷めちゃうから食べましょ!」
めずらしく赤くなるサクラちゃんが可愛かった。


***
夕飯を食べて、サクラちゃんが風呂に入っている間にカカシ先生と打ち合わせの続きをする。

「台風ひどくなってきたな・・・。この分だと俺は対策本部に呼ばれることになるからサクラの事は頼んだぞ」
「おう!ってカカシ先生」
「ん?」

俺はずっと思っていた事を聞いてみた。


「昔、サクラちゃんのばあちゃんの時はすぐに片付いたんだよな?」
「うん。相手が簡単に尻尾を出したから大事にならなかったよ」

「・・・今回は?」
「・・・・・・・・・」
黙り込むカカシ先生。


「そんなにヤバいのか?」
「ナルト」
「?」
カカシ先生はいつになく真面目な顔をしている。

「今回は全く情報がない。サクラの家に脅迫状が来た事は話しただろ?それだけだ。相手の目星が全く付かない」
「・・・そっか。カカシ先生はその脅迫状読んだのか?」

「あぁ。俺と綱手様、それからシカマルが読んでいる」
眉間にシワを寄せる先生は口ごもっている。

「何が書いてあったんだってばよ!?」
「・・・その脅迫状は血で書かれていた」
「血!?」
「あぁ。わざわざ血なんか使ってくるなんておかし過ぎる。筆跡が残るし、血液を調べたら色々分かるものだ」
「じゃあ・・・」
「血液は今、調査中だ」
「・・・・・・・・・」

「しかも内容は惨いものだった」
「え?」
「サクラには見せられない」
先生は視線を横に向けた。


そんなにかよ・・・。

「秘伝忍術を出さなければ、春野の一人娘を・・・サクラを狙うと書かれていたんだ。次の当主はサクラになるからだろう」
「そんな!だってサクラちゃんはその秘伝忍術の事さえ知らなかったんだろ!?」
「相手はそれを知らないからな」
「そっか・・・」

「今の当主であるサクラの両親を消し、サクラもないものとする。そこまでして秘伝忍術を自分たちのものにしたいらしい・・・」

「サクラちゃんを・・・狙う」
「あぁ。だからお前は絶対にサクラを守れ!」
「わ、分かったってばよ!」
肩をつかまれ、ふざけた様子のないカカシ先生に状況の深刻さを感じた。


***
風呂にも入り、三人で色々と話をしていたら夜も更けてきた。
最近この三人でこんなに長い時間一緒にいることも少ないから話すことはたくさんある。

「さて、そろそろ寝ますかね」
伸びをしながら立ち上がるカカシ先生。

カカシ先生はいつものように緊張感なく話していた。
きっとサクラちゃんを気遣っての事だろう。
それくらいは俺にも分かる。

「サクラは俺の部屋使ってね」
「え、いいんですか?カカシ先生とナルトは・・・」
「先生とナルトはリビングで寝るから大丈夫」
「・・・ありがとうございます」

「布団カバーもシーツも枕も新しくしてあるから安心して」
「そんなの気にしないのに!」
「一応ね」
マグカップを台所に運びながら笑う先生。

「おやすみなさい」と寝る支度を済ませたサクラちゃんはカカシ先生の寝室に入っていった。



窓に打ち付ける雨音は激しくなる。
うるさいなと思いながらも俺はうとうとしていた。


***
ふと、物音で目が覚める。
身体を起こすとカカシ先生が起きていた。

「・・・カカシ先生?」
「ゴメン、起こしたね」

「やっぱり呼び出し?」
「あぁ。行ってくる」
カカシ先生は素早く着替えを済ませた。

カチャッと扉の開く音がする。
「・・・先生?」
「あら・・・サクラも起こしちゃった?」

俺たちは玄関まで先生を見送ることにした。

「カカシ先生・・・」
不安げに先生を見上げるサクラちゃんに胸が痛む。

「大丈夫だよ、サクラ。ナルトが守ってくれる」
先生はサクラちゃんの頭を撫でながら笑う。
「・・・はい」

先生が玄関の扉を開ける。
外はまさしく暴風雨だった。

「うわ・・・こりゃすごいな」
「カカシ先生、気を付けて」
「うん。すぐに戻るから」
「はい」

「ナルト」
「押忍!」
「・・・頼んだぞ」
俺はうなずいた。


カカシ先生は暴風雨の中を出て行った。

「目が覚めちゃったわね。ホットミルクでも飲む?」
「うん!」

サクラちゃんはいつも通りだ。
俺は少し安心した。


***
ダイニングで向かい合って座る。

「はい。熱いかも。気を付けてね」
「ありがとう」

「・・・すごいね」
「え?」
「雨」
「あ、うん」

なんか・・・

小さな灯りしか点けていない部屋で見るサクラちゃんは普段より大人っぽく見えた。
なんだか照れくさくていつもみたいに話せない。
「寝よっか。明日は待機だもんね。なんの予定も任務もなし」
「綱手のばあちゃんの所に行くくらいだね」
サクラちゃんはうなずく。

「ナルト」
「ん?」

「何でもない、ゴメンね」
「どうしたんだってば?」
苦笑いするサクラちゃん。

「おやすみ。また明日・・・ね」
「うん・・・。おやすみ」
部屋に向かってしまったサクラちゃんを引き留めることは出来なかった。


***
俺は眠れず、布団で天井を見上げて考えていた。

「サクラちゃん、何を言いたかったんだろう」

ふいに何かの気配を感じて胸がざわつく。


・・・敵か?

この暴風雨の中を狙って来たのか?

俺は息を殺してサクラちゃんの所に向かった。

「サクラちゃん!」
小さく声を掛け、扉を開ける。

サクラちゃんも何かに気付いたのかベッドから降りてベッドの影で布団を掛けて隠れていた。

「ナルト」
「なんかいる」
うなずくサクラちゃん。


近寄ると腕を引かれ一緒にベッドの横に小さく座る。

絶対に何かいる。
人じゃない。

こちらを探っている。

何も仕掛けてこないところを見ると、カカシ先生が結界を張って行ったのかもしれない。

腕をギュッとつかまれ、サクラちゃんを見ると眉間にシワを寄せ、辺りを警戒していた。

「サクラちゃん」
「?」
「大丈夫!絶対に俺が守る。俺はなにがあってもサクラちゃんの傍から離れない。約束だ」
「ナルト・・・」
不安げに俺を見上げる。

少しでも不安をなくしてあげたくて俺は笑った。
少しの間、二人で意識を集中して様子をうかがっていた。

影分身は術を発動したら相手に気付かれると思って使わなかった。


***
しばらくすると気配が消えた。

ホッと息を付き体の力を抜く。

「もう大丈夫だってばよ、サクラちゃん!」
「・・・・・・・・・」

「サクラちゃん?」
「・・・のに」
「へ?」

「いつもなら・・・こんなのなんともないのに・・・」
サクラちゃんはうつむいている。

「怖いし、寂しいし、お父さんとお母さんが心配なのに何も出来なくて悔しい!」

サクラちゃんは床に付いた手をギュッと握りしめる。

「サクラちゃん・・・」

さっき言いかけたのはこのことだったんだろうか・・・。
無理していつも通りにして、平気な振りをしていたのかもしれない。

「サクラちゃん」
「・・・・・・・・・?」


「シカマルも言っていたけど、今回は俺たちに守られておいてよ」
うつむくサクラちゃんを抱きしめる。

「サクラちゃんの父ちゃんたちは木ノ葉の施設にいるからみんなが絶対に守ってくれる」


「サクラちゃんは・・・俺が守ってみせるから」
腕に力を込める。


抱えたことは何度もあるから分かっていたけれど、いつもよりもサクラちゃんが壊れ物のように感じた。

「ナルト・・・」
サクラちゃんが見上げてきて我に返る。



「あ!これは、その・・・ゴメン」
サクラちゃんから手を離す。


距離を置こうとすると手を引かれる。


「いいの。ビックリしただけ」
「へ!?」

「・・・離れないんでしょう?」
赤い顔で手を引かれたまま言われるとなんだか恥ずかしくなってくる。


サクラちゃんの隣に座り直したものの、俺はどうしたらいいのか分からない。

「ナルト」
「は、はいっ!」
床に付いた手を握られる。



「いつもありがとう」


そう言うとサクラちゃんは気が緩んだのか、俺の肩に寄りかかり眠ってしまった。


ドキッとしたけれど安心した顔で眠るサクラちゃんにホッとした。



「おやすみ」
サクラちゃんの肩に布団を掛け直し、俺も目を閉じた。

−END−



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