■ 蒼と翆

任務中のナルトとサクラのお話

「サクラちゃん・・・」

耳元で聞き慣れた声がする。


「サクラちゃん!」
呼ばれてハッとする。


「大丈夫?」
「え、あ、うん!・・・って近いわよ!」
「そんなこと言われても・・・。声が大きいってばよ」
「・・・・・・・・・。」

目の前の蒼い瞳が光る。
晴れた日の空のように澄んだ蒼。

私はこの色が昔から好きだ。



って、何なのよ・・・この状況!


私を守るように隠れてくれているのに悪態をついてしまうのは恥ずかしいからだ。


今、私はナルトと任務中なのだけれど隠れようと二人で入った路地が思っていたより狭くて密着状態なのだ。


前なら何とも思わなかったはずなのに、今日は色々と考えてしまいナルトを意識している自分がいる。


それもこれも、いののせいだ。


***
「え?目で追っちゃう?」
「・・・うん。」
「サクラ、それって・・・」
「なに?」


「好きなの?」
「は?」

「『は?』じゃなくて!」
「・・・誰が誰を?」
「こらこら」


「ついに自覚したかと思ったのに・・・ナルトってやっぱり不憫」
「え?」
「いや、こっちの話」
苦笑いされる。

「まぁいいわ。で、いつから?」
「うーん・・・里がペインに壊されて、ナルトが一人で戦いに行って戻ってきたとき・・・かな」
本当はもう少し前からそうだったのだけれど、恥ずかしくて言えなかった。


「今さらだけど、あんたにはハッキリ言わなきゃ分かんないみたいね」
「?」
いのはため息をつく。

「それってさ、サクラ。ナルトを意識してるってことでしょ?」
「ち、違うわよ!」
「違うー?」
顔を近付けてくる。

相変わらずキレイな顔だ。
肌、ツヤツヤしてるし・・・。

私の親友は美人だ。
いのにはやっぱり今も憧れる。


「し、心配なのよ!」
「心配?」

「そ!ナルトのヤツ、いっつも無茶するから!」
「心配ねぇ・・・」

「・・・なによ」
「心配ってことは意識してるってことなんじゃないのー?」
「・・・・・・・・・」


「ナルト、背も伸びて男らしくなったもんね。じっくり顔見るとなかなかに男前だし。子供の時と印象違うわよね」

そうなのだ。
ナルトは昔と印象がかなり違う。

里のみんなから認められるようになったのはナルトが今までずっと頑張って来たから。
私はそれを隣でずっと見てきた。

私は子供の頃はウザったいとかヒドイことを思っていたし、ナルトに嫌われたとしても仕方ない態度を取っていた。

それなのに・・・

それなのにナルトは私を・・・


「何より里の英雄だもの。聞いたわよー」
「な、何よ?」
ニヤニヤするいの。

「戻ってきたナルトを抱きしめたとか!」
「そ、それは!」
「それは?」


「・・・今までのお礼と言うか、なんか込み上げてきちゃって」
「ほほー」


「・・・いの、楽しそうね」
「そりゃそうよ!友達の恋の話ほど楽しいことはないわ!」
「・・・恋じゃないもん!」
「はいはい」


『自分の事はどうなのよ!』と言いたいのだけれどそれはそれで話し出すと長いからやめておいた。


***
そんなわけで、いのが変なことを言い出すから私は任務中という状況なのにナルトを意識してしまっている。




「はぁ・・・」
「?」
「・・・・・・・・・」
「サクラちゃん?やっぱり変だってばよ、具合悪い?」
「!?」

ふいにナルトが私の額に手を乗せる。
それだけならまだしも顔をのぞきこまれて近い!

「なんか熱い・・・かな?」
「な、何でもないわよっ!」
手を振り払ってしまった。

いつもこうだ。
私は強い口調でナルトに接してしまう。

でもそれもいつものことのようにナルトは気にした様子もない。



物音がしてハッとする。
何かが飛んで来た。
すかさずクナイを取り出し打ち返す。


次の瞬間にはナルトに抱えられていた。

「ナルト!」
「見つかった!数が多すぎる。ここはとりあえず逃げるってばよ。サクラちゃんしっかりつかまってて」
「う、うん!」

木を飛び移って逃げる。
その間もずっとクナイや起爆札が飛んでくる。

「ナルト・・・」
「大丈夫!逃げられるってばよ」

意思の強い蒼い瞳。
私はいつもこの瞳に安心させられてきた。

ナルトが大丈夫と言うなら大丈夫なのだと。


私を抱えているのに器用に攻撃を避けて建物や木を飛び続けるナルト。
見上げると不謹慎だとは思いつつ、凛々しい横顔にドキッとしてしまう。


***
なんとか襲撃から逃れられたようだ。
森の中まで逃げ込んでしまった。
木の上から抱えられたまま地面に降りる。

「ナルト!?」
降りた途端にしゃがみ込み膝をつくナルト。


ズルズルともたれ掛かって来る。

「やだ・・・怪我した?」
無茶ばかりするのはいつものことなのに・・・。
胸がザワついて仕方がない。

「気持ち・・・」
「え、気持ち悪い?頭打った?もしかしてクナイに毒!?」

慌てて身体を抱き起こす。

「気持ちいいからつい・・・」
「この・・・!ナルトぉ!」

私はナルトを放り出して立ち上がり離れる。



「サクラちゃん、ごめんっ!」
「・・・・・・・・・。」

心臓がドキドキ言っている。
ナルトが怪我をしたかと思ったら不安で胸が苦しくなった。


「サクラちゃん?」
「・・・だから」


「え?」
「心配したんだからっ!」
「サクラちゃん・・・?」

後ろで立ち上がる気配がする。


わ、やだ・・・
何で涙なんか・・・

ナルトがふざけることなんていつものことなのに。

「サクラちゃん、ごめん」
・・・今はこっち来ないでよ。


「ふざけ過ぎた、ごめん」
「・・・・・・・・・」


「あ、ほら!俺ってばホントに怪我しても九尾の力ですぐ治っちゃうから心配ないってばよ!」
「っ!そういう問題じゃないの!!」
「うぉっ!」
振り返りナルトに詰め寄る。

最近はお互いに別の任務で動くことが多く、ナルトと二人になったのは久しぶりだった。
私の知らないところでナルトが無茶をしていないかとずっと心配していた。

昔からそうだけれど、ペインの事件で自分の事を省みないナルトの姿を見て以来、私は不安でたまらなかった。
だから込み上げてくるなにかがあったんだと思う。

自分の事は後回しでいつも無茶をするナルト。

『火影になる』って子供の頃から耳にタコが出来る程聞いてきた。

子供の頃は「ナルトが火影になるなんてありえない」ってずっと思っていたけれど、今はありえないことじゃない。

いまは火影を目指すことを応援している私がいる。

もちろん無茶をして欲しくない気持ちもあるのだけれど。

だってナルトは火影になるために無茶をするだろうし、火影になったら今以上に自分の事を省みないだろう。
自分のことを後回しにすることを厭わないナルト。


言ったって聞かないなら、ナルトの横でカカシ先生やみんなとナルトを支えたい。
色々な思いが駆け巡り、また涙が出そうになり顔が見れなくてうつむいてしまう。

泣いているのも見られたくない。
なのに涙は止まらない。

「・・・サクラちゃん?」


ナルトのバカ。
いくら九尾の力があったって、怪我したり具合が悪くなったら心配なのよ・・・。


「サクラちゃん、ホントにごめん。顔上げてくれってばよ」

心底困ったような声でナルトは言う。
反省しているみたいだから、もう一言言って許そうと目元をこすり顔を上げてナルトを睨む。

「ごめん、な」
「っ!」
顔に手が伸びて来て涙を拭かれる。


そんなことどこで覚えてきたのよ!
不覚にも顔が熱くなる。

「ごめん、サクラちゃん」
「・・・・・・・・・」

「サクラちゃんの目はキレイだな。翡翠みたいだ」
「は!?」


な、なに?ナルトらしくないわよ!

「・・・ってカカシ先生に教えてもらったんだけど」
ニカッと笑うナルト。

「何を?」

「前に、サクラちゃんの目がキレイだって話をカカシ先生やサイとしたんだ」


「緑色より明るくて、でも深い色だから何色って言うんだろうって聞いたら、カカシ先生が『サクラの瞳の色は翡翠みたいだ』って言うんだ」


カカシ先生・・・。
恥ずかしいことをサラッと言うわね。
さすがと言うか、何と言うか・・・。


「俺ってば翡翠を見たことがないから、綱手のばあちゃんの所に聞きに行ったんだ。そしたらばあちゃん、翡翠で出来た指輪を見せてくれた」
ナルトは嬉しそうに話す。

「その指輪を見た瞬間、すっげー驚いたんだってばよ!」

「まさしくサクラちゃんの目と同じだったんだ!翡翠ってすっげーキレイでさ!カカシ先生の言う通りなんだ!」



うわ・・・。
なんかすごく恥ずかしい・・・。


「だから、サクラちゃんの目は翡翠みたいにキレイだって言ったんだってばよ!」
「・・・ありがと」
嬉しそうに笑うナルト。



「キレイなのはあんたの目よ」
「へ?」
「ナルトの目は、空みたいに蒼くてキラキラしてる」

一瞬、ポカンとしたあとに照れくさそうにありがとうとナルトは言った。

この瞬間、私の中にあった思い想いは確信に変わった。


ずっと否定してきた思い。


いのに話すことで考えさせられ、ナルトと触れ合うことでハッキリ自覚してしまった。


私はいつの間にかナルトのことを男の人として意識している。
分かった途端に恥ずかしくなる。

「あのー」
「「サイ!?」」
すぐ横にサイが立っていた。

「ちょっと、いつの間に?」
「結構最初の方から・・・」


「・・・何よ?」
「物陰から見てたよ」
「!!」
この笑顔に腹が立つ。

「なんですぐ声掛けないんだってば!?」
「こういう雰囲気の時に声を掛けるのは野暮だと、この本に書いてあったよ」
本を見せてくるサイ。

出た・・・。
本の知識を真に受けてるし・・・。

「二人ともイイ雰囲気だからそのままにしておこうと思ったんだけど、ヤマト隊長から連絡が入ったから仕方なく・・・」
「な、何よ!イイ雰囲気って!」
サイの言葉に恥ずかしくなる。

「いや、言葉の意味そのままだけど・・・。サクラ何を怒ってるの?」
「っ!ほら、行くわよ!ヤマト隊長の所に!」
私は走り出す。

「あ、サクラちゃん待ってくれってばよ!」
「サクラ、ヤマト隊長がどこにいるか分からないだろ?」

ナルトとサイが後ろからついてくる。

自分の気持ちに気付けたのに、浸る時間もないわけ!?

私の恋は前途多難だ。

いつかナルトにちゃんと伝えたい。
とりあえずは、いのに自分の気持ちに正直になれたよって話を聞いてもらおう。

−END−



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