■ 真夜中の邂逅

真夜中にサクラが会ったのは…嵐が明けたらの続編

今日は任務がなく、いのと予定が合ったので、約束通り遊んでいた。


「何だかえらいことになってたのね・・・」
カフェで夕飯を食べながら、この間の事を話せる範囲で話した。


「ツッコミ所満載で、どこから聞けば良いのか分からないわね」
「うん」

いのは私の話を終始「わー!!」とか「きゃー!!」とか言って喜んでいた。

「とにかく、やるわね。サクラ!!」
「うーん・・・」

「砂の忍からの求婚!!ナルトも目の前でそんな事されたら気が気じゃないわね」
アゴに手を置き、ニヤッと笑ういの。


「ついにサクラも自分の気持ちに気付けたと思ったら、ナルトに迫られちゃうとはねぇ。やるじゃん、ナルト!!」
「やめてよ。あの時の私は、おかしかったんだから。ナルトの事、追い詰めちゃって反省してんの!!」

「ナルトも焦ったでしょうねー。そんな事があった後に、目の前で突然、好きな子が他の誰かにプロポーズされてるんだもん」
「あはは・・・。って笑えない」


「女冥利に尽きるわね!!そんなプロポーズされちゃ。私もされてみたいなー」
「でも、たくさんの人に迷惑をかけちゃった」
「そうね、それは良くないわ」
いのはうなずいている。

「シカマルが頑張って色々と調べてくれたおかげで解決したのよ」
「ふーん。そういうの得意だもんね、アイツ」
嬉しそうないの。


「あ、手紙ありがとう。シカマルから受け取ったわ。すごい嬉しかった・・・」
「どーいたしまして。ホントに無事で良かったわ」


長年一緒にいると、こういう風にお礼を伝えるのは照れくさい。
それはいのも同じみたいだ。
言葉はそっけないけれど、いのの耳は赤かった。

「で。ナルトとは?」
「それが、あの日以来、全く話していないの」
「えー。もったいない」


「次の日からナルトは任務で外に出ちゃったのよ」
「ほほうー。次に会うの楽しみね」
「ちょ、いの!!」

こっちは次に会った時どんな顔すればいいのか分からないのに!!
楽しそうないのを睨んだ。

「頑張んなさいよー」
「もうっ!!」


話をしていると時間が経つのはあっという間だ。
話が盛り上がってしまい、0時を過ぎてしまった。
いのと別れて帰り道を歩く。


話せて良かったな。
いのに話したら、ナルトへの想いを実感した。



ふと、ナルトに会いたくなる。
任務で外に出ているからいないのは分かっているのだけれど。


「少し遠回りして帰ろう」
私はナルトの家に向かった。


***
川沿いを歩いていると星がキレイで、それだけで嬉しくなってしまう。
「ナルト、無茶してないかな・・・」


少し歩くとナルトの家が見えて来る。
いないのは分かってる。
でも、なんとなく足が向いてしまった。


下から部屋を見上げる。

あの部屋で色々あったなぁと思い返す。

周りに人がいなかったから良かったけれど、変な人だよね、私。

帰ろうとすると、上から何かが倒れたような音が聞こえて来た。
「なんだろう・・・」


階段を駆け上がる。


暗くて良く見えないけれど、人が倒れていた。
慌てて駆け寄る。

「だ、大丈夫ですか!?」
「う・・・」


え?
この声と雰囲気・・・

「ナルト!?」
「サ、クラちゃ・・・ん、なん、で・・・」
「な、なんで?って・・・ナルトこそ任務で外にいるんじゃ・・・」
「ちょっとしくじっちゃったんだってば・・・いっ!!」
「ナルト!!」


抱き起こすと、手に血がベットリ付いた。

病院に運ぶ前に応急処置が必要だった。


「ナルト、気を失ったらダメよ、起きて!!部屋の鍵はどこにあるの?」
「そこ・・・植木鉢の・・・下、に・・・」
「不用心過ぎるわよ!!」
腕を伸ばし、鍵を取る。


「ナルト、私の肩に腕掛けられる?」
眉間にシワを寄せながら腕を上げるナルト。
「く・・・」


「よし、いくわよ」
グッと力を入れ、立ち上がる。


「・・・はは。スゲーな、サクラ・・・ちゃ・・・ん、軽々じゃん」
「軽くないわよ!!」
ナルトを抱えたまま鍵を開ける。


・・・鍵を開けてから抱えれば良かったと後悔。


「サク・・・ちゃん、服、汚れちゃう・・・ってば・・・」
「バカ、もう黙んなさい!!」


ナルトの脇腹からの出血はひどくて、私の服はすぐに赤く染まった。


***
部屋に上がり、寝室に向かう。

「ナルト?」
「・・・・・・」

まずい、意識が・・・。



ベッドにゆっくり降ろして、キッチンでお湯を沸かす。
「キレイな手ぬぐいは・・・と」


バスタオルや手ぬぐいを引っ張り出す。
1枚を水で濡らしてナルトの元へ戻る。



顔の汚れを拭いて額に乗せる。

「気持ちいー」
表情が和らぎ、ホッとする。


「傷、診せてね」
「お願い、します」
首元のジッパーを下ろす。

出血がひどい。
上着は破れて血まみれ。
下に着ている鎖帷子さえも破れていた。


「一体、何されたの?」
傷は深くないみたいだった。
だけど、血がなかなか止まらない。
シーツに血だまりが出来てしまった。

お湯が沸いたらしい。
大量のタオルと手ぬぐい、お湯を運んで来る。


血が止まらないのは、多分武器に毒が塗られていたんだろう。
慎重に傷口を洗い、毒も一緒に流す。

「ごめんね、少し痛いわよ」
「っ!!」

触診する。


腫れている。
かなり痛いだろう。



歯を食いしばるナルトが痛々しい。
「ごめんね・・・もうちょっと頑張って」

固く絞った手ぬぐいで、傷の周りの水滴を血液を拭きとる。

悪い血は流せたから、今度は止血しないと。



深呼吸して傷口に両手をかざし、チャクラを送り込む。

「うわ・・・あったけー。気持ちイイ・・・」
「そ?良かった」



今日、任務なくて良かった・・・。
ナルトに流れ込むチャクラの量に驚く。
チャクラがすごい勢いで持って行かれるのが分かった。

止血が終わる頃には、ナルトは静かに寝息を立てていた。


「良かった」

これなら病院に運ばなくても平気みたい。

止血出来たから病院に行って、薬を調合してこないと・・・。


「!!」

立ちくらみが起こり、転びそうになる。
慌てて床に手を付いた。


病院、行かないと。


鍵は植木鉢の下に隠さず、ちゃんと持って出た。


***
一応医療忍者を名乗っているので、いつでも木ノ葉病院に出入りする事が出来る。
顔馴染みのスタッフに挨拶をして中に入る。


深夜でも夜勤のスタッフが常駐しているのだ。
訳を話してラボを借りる。
顔色が悪い事と服に付いた血液に驚かれ心配されてしまったけれど、今はそれどころじゃない。


ナルトの傷口から採取した毒を調べる。
そこまで大した毒ではない事が分かり、ホッとする。

解毒用の薬草をいくつか分けてもらい調合した。

あとはこの解毒薬と水をたくさん飲ませれば大丈夫。


私はスタッフにお礼を言ってナルトの家に戻った。


***
穏やかな表情で眠るナルト。
病院から借りて来た医療キットを広げ、傷口を消毒してガーゼを当て、包帯でお腹を固定した。


あとはシーツを片づけないと・・・
毒の混じった血液が、固まることなく溜まっている。
上着も帷子も処分しないと・・・


それより何より、ナルトに解毒薬を飲ませないといけない。

静かに眠っているのを起こすのは気が引けるけれど、仕方がない。



額に乗せた手ぬぐいを取ると、温かくなっていた。
少し熱もあるんだろう。

「ナルト」
肩を揺する。


「ナルト、起きて」
「ん・・・」

「ごめんね、でも起きて。着替えないと。それからコレを飲んで」
「分かったってば」
体を起こすのに手を貸す。


「着替えと新しいシーツを持って来るから、コレ飲んでおいて」
解毒薬と水を渡す。
隣の部屋で着替えとシーツを探す。


「にがっ!!!!」
ナルトが叫んでいる。

そりゃそーよ。
薬草たっぷりですもん。


タンスの引き出しを引くと、自分も血だらけなことに気付く。
・・・私も着替え借りないとダメだわ。

シーツと着替えを持って寝室に戻る。
「まずかったってば・・・」
「たくさん水飲んでね」
涙目でナルトはうなずいた。


「上着と帷子、脱げる?」
「う、うん」


傷のある左腕が痺れているらしく、脱ぐのが大変そうだ。
「手伝うわ」
ナルトの側に寄りベッドに腰掛け、上着に手を伸ばす。

右腕はすぐに脱がす事が出来た。


左腕は慎重に脱がせないと・・・


眉間にシワ寄せるナルトが痛々しい。
「だ、大丈夫・・・?」


黙ってうなずくナルト。
「?」


なんで突然黙ってんのかしら。

帷子は脱がせるのが大変だった。
体にフィットしているので、少しずらすだけでもナルトがうめく。
ゆっくり慎重に脱がせた。


新しく沸かしてきたお湯に手ぬぐいを浸して絞り、体を拭いた。
ナルトには洗面器のお湯で手を洗わせる。


終始無言なのでいつもと違う雰囲気に違和感を覚える。

「ナルト・・・苦しいの?何も話さないけど」
「違う・・・。いや、サクラちゃんと距離が近いから・・・つい」
「え?」
手を止める。
言われるまで全く気になんてしていなかった。


「ちょっと、やめてよ。怪我してるんだから、これは治療の一環で・・・」

上半身裸のナルトに寄り添うようにしている自分の距離にハッとする。
「仕方ないじゃない!!」
「ご、ごめん!!でも・・・」
ナルトは耳まで真っ赤だった。


なんでそこまで赤くなるのよ・・・。
今までだってこんなに赤くなるのは見たことないのに。

うわ・・・
なんか恥ずかしくなって来た!!


「!!」
手ぬぐいをお湯に浸そうと離れた瞬間、手を引かれた。


私は立ち膝の体勢でナルトに抱きしめられていた。


「ナルト!?」
「ごめん・・・少し、このままで・・・」
「・・・っ」

消え入りそうな声で言われ、何も言い返せない。


胸に顔をうずめられているけれど、もうそれもイイやって思った。



「・・・サクラちゃん、ありがとう。助けてくれて」
ナルトは顔を上げずに話す。

「・・・何言ってんのよ。当たり前じゃない」
「でも、俺、放っておいても九尾の力で勝手に治・・・」
「バカ!!またそれ言ってんの!?いくら回復が早くったって、痛いのも苦しいのも他の人と変わりないじゃない!!」



「・・・イヤなのよ、ナルトが苦しむのは」
「サクラちゃん・・・」



「ありが・・・とう」
右腕が背に回り、抱きしめられた。
「ねぇ」
「ん?」



「せっかく拭いたのに、私にくっついたら血で汚れるわ」
「また拭いてくれるんだってば?」
顔を上げて二カッと笑うナルト。


「・・・それだけ元気ならもう大丈夫ね」
私は恥ずかしくて顔を背けた。



「サクラちゃん」
「・・・何よ」


「座ってくれってば」
「・・・うん」

私はその場に正座で座った。
ナルトと目線が同じになり、戸惑ってしまう。

「この間の事・・・」
体は離れたけれど、両手はナルトに握られたまま。
しかもじっと見つめられ、目が逸らせない。


「ゴタゴタして、変な感じになっちまったけど・・・」
「・・・うん」


「アイツから守るために言った言葉も、二人だけの時に言った言葉も全部、本気だ」
いつになく真剣な表情のナルトにドキドキしてしまう。



どうしよう・・・


すごく嬉しい・・・
私も何か言わなくちゃと思っているのに、口を開いたら涙が出そうで唇が震える。



「・・・いっ!!」
「ナルト!?」


「調子に乗り過ぎた・・・。ゴメン、サクラちゃん」
「大丈夫!?」
苦笑いでナルトが手を離してくれる。

内心ホッとした。

ここで自分の気持ちを言ってしまえれば良かったのか、言わずに済んで良かったのか・・・


「シーツ、片付けるわね!!あと上着も処分しないとね」
慌てて立ち上がり、ナルトから離れる。

シーツをはがし、上着を取りキッチンに走る。
「サクラちゃん?」

ナルトの顔が見れない。


***
「っ!!」
足に力が入らない。


「あ!!」



崩れ落ちると思った瞬間。
誰かに支えられた。



「っと」


重たいまぶたを必死で開く。
「カ、カシせんせ・・・」


「サクラ。ムチャし過ぎだよ」
怒ったような、困ったような表情のカカシ先生。


「サクラちゃん!?」
壁に手を付き、ナルトが現れる。


「カカシ先生!!」
「よ。大丈夫か?」
「大丈夫・・・じゃないってばよ・・・」
ナルトもしゃがみ込む。

「カカシせんせ・・・なんで・・・」
私は抱えられたままで見上げる。


「いのちゃんが連絡くれてね」
「い、の?」
「うん。サクラが家に帰ってないから心配して俺に連絡くれたの」
「そ・・・っか」
またいのに心配かけちゃった・・・。



「ナルト、お前の事も聞いた。任務はヤマトが片付けたそうだよ」
「・・・次会ったら怒られるかな」
「だろうね、ブツブツ言ってたよ」
「マジかー。ヤマト隊長怖いってばよ・・・」
頭を抱えるナルト。


「傷、サクラが診たんだろう?なら大丈夫だな。ゆっくり休め」
「うん」

「ヤマトと綱手様には俺が話しておくよ」
「・・・お願いします」
ナルトの顔が引きつる。

「先生、サクラちゃんは・・・」
「ナルトにチャクラあげすぎたんだろうね。俺が責任持って家まで送るから大丈夫だよ」
「カカシ先生・・・ありがとう」
二カッと笑う先生。


「でも、俺のせいでサクラちゃんは・・・だから俺が・・・」
「そんなフラフラで無理デショ。せっかくサクラが診てくれたんだから、お前はおとなしく休むの」
「・・・うん」
しょんぼりしているナルト。

「ナ、ルト」
「なに!?サクラちゃん!!」
ナルトが近寄って来てくれる。


「明日は、一日休んでなきゃ、ダメ、よ」
「わかったってば。サクラちゃん、ゴメンな。ありがとう」
「ん」


「サクラ、じゃあ行くよ?」
「はい、先生・・・お願いします」
私はカカシ先生に抱きかかえられてナルトの家を出た。


***
屋根を飛び越える。
風が気持ちいい・・・


「サクラ」
「はい」
「ナルトを大事に思う気持ちは良く分かるよ。でもあんまり無茶したらダメだ。それでサクラが具合悪くなったら、ナルトが心配するよ。もちろん、俺もね」
にっこりと優しく笑う先生。
「はい、ごめんなさい」
「うん。じゃあ、着くまで眠ってて」
カカシ先生の腕の中は心地良くて私はすぐに眠りに落ちた。

眠りに落ちる瞬間、ナルトに自分の気持ちをどんな風に伝えようか、ちゃんと考えようと思った。

−END−



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