■ 元担当教師の本心

朝から綱手さまに呼び出されたわけだけど・・・
何かしたっけ、俺・・・

いやいや、今回は思い当たるフシがあり過ぎてもう何を言われるのか検討もつかない・・・



怖い・・・
この沈黙が逆に怖い・・・


シズネが出してくれたお茶はぬるくなってしまった。
手持ち無沙汰に手を伸ばす。

「時にカカシ」
「うわっ!っと、はい!!!!」
慌ててお茶をこぼしてしまった。
ぬるくなっていて本当に良かった。


「サクラの件はご苦労だった」
「は、はぁ・・・」
置いてあった布巾でテーブルを拭く。

「あの勘違い娘もなんとか納得したようだな」
「そ、そうですか」

「サクラが納得したのは良かったんだが・・・」
「なにか不備でもありましたか?」

「サクラをそのまま泊めたそうだな」
「え!?あ、はい!もう遅かったですし!!」

な、なんだ?
何を聞かれるんだ?

「それで、どうなんだ」
「なにがですか?」

「その・・・あれだ。お前は・・・サクラをどう思っているんだ」
「へ!?」


一体サクラはどんな風に話をしたんだよ・・・
返答次第で俺、殺されるんじゃない?

「綱手さま・・・」
「なんだ」

「サクラはなんて?」
「えーと、だな。サクラはカカシを好き・・・なのだと言って来たぞ」

さっきから全然こっちを見てこないんだが・・・怒っているのか?

・・・ここは、真面目に答えよう。


「俺もサクラのことが好きです」
「そうなのか!」
「ちょっと、綱手さま!いた、痛いですって!」

「お前!それはどういう意味で言っているんだ!」
やっとこちらを見たかと思ったら身を乗り出して肩を掴まれる。

「どういう意味って・・・そのままの意味ですけど」
「生徒とか部下って意味じゃないんだな?」
「は、はい。一人の女の子として好きです」
「いつからだ!」
「え、えーと・・・しっかりと自覚したのはこの間の件でなんですけど、今思い返せばだいぶ昔からサクラは・・・ってなんで俺そんなこと話さなきゃいけないんですか!」
「バカもの!サクラは私の大事な弟子だ!」
「それは十分わかってますけど!」
「だったらちゃんと答えんか!」

う・・・
子どもの頃、他里への隠密調査でヘマして捕まってされた拷問よりキツイ・・・
誰か助けに来てくれ・・・ないよな・・・

「と、とにかく!俺は中途半端な気持ちでサクラのことを考えたりしていませんから!」
「そ、そうか!ならいい」

やっと手を放してくれた・・・

「しかし・・・カカシ、あれだぞ」
「はい?」
まだなにかあるのか?

「おとなになったとはいえ、サクラはまだ16なんだからな」
「ど、どういう意味ですか?」

「あんまり無体なことはするなよ!」
「はい!?な、何言ってるんですか!」

ガターン

奥の会議室からものすごい音がした。


「・・・出てきなさいヨ、いるんデショ・・・」


「あ、あははは・・・すみません・・・」
奥からシズネとトントンが出てくる。

「・・・なにしてんの」
「姉弟子としては気になっちゃいましてね・・・」


「・・・もう帰っていいですか?なんか具合いが・・・」
頭痛くなってきたぞ・・・

「風邪か?」

風邪・・・なのか?
確かに身体もダルい気がする。
早く帰って休もう。

「カカシ、しっかりな!サクラのことは頼んだぞ!」
「は、はぁ・・・」


「失礼しました」
俺は執務室を出た。

結局何だったんだ、今回の呼び出しは。
サクラのことが心配なのはわかるけど、俺を呼び出して聞き出すのはやめてくれないかな。


いや、サクラに聞かれて全て聞き出されるのもキツイな・・・


道すがら、さっき綱手さまの前で言った事を思い返す。
「サクラのことを一人の女の子として好きだ」なんて言ってしまった。

口に出すと自分の中で納得出来た。


本人にもちゃんと言っていないのに綱手さまに話して自覚するなんてなぁ・・・
恋愛なんてものからは程遠い生活をし過ぎて、こういうのってどうして来たか思い出せないんだよ・・・


うーん・・・
サクラに俺の気持ちって伝えてもいいものなんだろうか・・・

今更だけど教え子だし、部下だし・・・
歳だって一回り以上も違うし。

それでも他の誰かに渡したくないという気持ちは俺の中でだいぶ前からあるみたいだ。


・・・ダメだ。
頭が痛い・・・

今日はもう風呂に入って寝よう。


***
「先生・・・」

サクラの声が耳元でして目を開ける。
柔らかい感触。

「サク・・・ラ」
腕にはサクラがいた。


頬に手をあて撫でる。
「っ・・・」
その反応に身体が熱くなる。

「せんせぇ、くすぐったい・・・」
「サクラ・・・」

唇を塞ぐ。

「ん・・・」
「サクラ・・・っ」

息つく間も与えない程に口付ける。

「せん、せ・・・」

息の上がった表情にたまらなくなる。


おかしいな・・・いつの間にサクラとこんなことになったんだ?

口付けたままウエストから上に向かって手を差し入れる。
「っ・・・!」
サクラが身をよじる。


「カカシ先生!」
名前を呼ばれてハッとする。


見慣れた天井。
俺はベッドの上だった。

夢・・・?


「カカシ先生、具合どう?」
「サ、クラ・・・?」

ベッドの脇にサクラが立っていた。
「調子が悪いみたいだって綱手さまから聞いて来ちゃいました」
「あれ・・・カギは・・・」
「インターフォン鳴らしたんだけど先生出て来なくて・・・ドアノブ回したら鍵かかってなかったわよ?先生ったら結構不用心なのね」
「・・・・・・・・・」

「それより、具合はどう?熱は・・・」
覆いかぶさるように身を乗り出してくる。

「うーん、熱あるわね。手ぬぐい濡らして・・・」


伸ばして来た腕を引き、サクラを組み敷く。
「・・・カカシ先生?」
「・・・・・・・・・」

「具合悪いのになんの冗談・・・」


身体が熱い。
でも意識はしっかりしていた・・・と思う。

おかしな夢を見たせいなのかこれが夢の続きのように思ってしまっていた。


「サクラ・・・」
「せ、先生!?」

サクラに覆いかぶさり顔を近づける。

「ちょっと、待って!」
「ヤダ。待たない」
サクラを抱きしめると夢と一緒で柔らかい・・・

「どうしたのよ、先生!」
身体を押し返してくるけれど、さすがのサクラもベッドで倒されたら上に乗った男は動かせない。


「サクラ・・・好きだ」
「へ・・・?」

瞳が光る。


「先生?や、やだなー。熱でやられちゃったの?」
「俺はサクラが好きだ。しっかり気付いたのはこの間だけど、考えてみたらだいぶ前からサクラを誰にも渡したくないって思ってたんだ」


「先生・・・本当に?」
「俺がウソ言ったことある?」
「・・・・・・・・・」

視線が外れて左上を見て何か考えているようだ。
すぐに視線が戻る。

「いつもウソばっかりじゃない」
「あ、あれ・・・そうだっけ?」
無言でにらまれる。

でもそれも今は俺を煽る理由でしかない。
怒った顔もいいなぁ・・・

「サクラ・・・」
「な、なに?」
頬にかかったピンク色の髪にふれる。


「俺のこと好き?」
「え?」

「俺はサクラが好きだよ」
「先生・・・どうして突然・・・」


「この間、話は今度だって言ったデショ」
「そ、そうだけど!」

「そうだけど?」
「先生が素直過ぎてなんか・・・怖い」


「俺はサクラが好きだからこの間からずっとこうしたかった」
「!」

「だって・・・この間は一緒に寝るのもダメだって先生言ったじゃない」
「俺、相当我慢してたんだよ。なのにサクラは背中にくっついてくれちゃってさ・・・」
「う・・・」

髪の束を掴んでいた手を開くとサラリと流れ落ちた。

「サクラは俺をどう思ってる?」
驚いた表情のあと、サクラは俺を押し返すのやめた。

「サクラ?」
「先生ズルい、私の気持ちはもう言ったじゃない。それなのにこんな状況でまた言わせる気なの?」
「うん、聞きたい」
「アッサリ言わないでよー!イジワル!」

「サクラ・・・」
「・・・・・・・・・」

「サクラの気持ち、聞きたい」
じっと見つめる。
サクラの翡翠色の瞳が揺れる。


「・・・好きよ。私は先生が好き。だから通過儀礼のことで先生のところに来たのよ」
「でもサクラの好きと俺の好きは違うよね?」
「え?」


「こんな事する俺でも好き・・・?」
「っ!」
人差し指で唇をなでるとサクラは体を震わせた。


「せ、先生は先生だわ。・・・好きよ」

サクラの脚の間に膝を進めるとベッドが軋んだ。
口元のマスクに指を掛け下ろす。

「俺はサクラにこんなことをしてしまうくらい好きだよ・・・」
唇をなで続ける。


「カカシ先生・・・」
「うん?」

「待って・・・」
「だから、もう待たない」
「だって先生具合いが・・・っ」

初めは軽く口付ける。
柔らかくて気持ち良くて何度も口付ける。

「ん・・・!」
「サク、ラ・・・」


「んぅ・・・!」
「・・・は」

苦しげに口を開けた隙に舌を割り入れる。
「!!」

「んん・・・!」


「っ!」
アゴから首筋に沿って唇を這わせる。

「やっ、やめ・・・」
「やめない。やめられない・・・」


「せんせ・・・ウソ・・・」

驚いた声のサクラに顔を上げる。
苦しげに呼吸を整えようとしているのが扇情的で身体が熱くなった。

「・・・なに?」

「先生・・・左眼が・・・」
「・・・・・・・・・」

言われるまで気付かなかった。
左眼を開けてしまっていた。


「どうして・・・写輪眼に・・・」
「俺の眼は常に写輪眼なんだよ・・・」
「そうだったの・・・」

「開けていると体力とチャクラ消耗しちゃうからいつも閉じてるクセがついてたはずなんだけどなぁ」
「でも・・・開いてるわ・・・」

「・・・たぶん、興奮してるからじゃない?」
「!」

サクラが一層赤くなる。

「なに?」
「せ、先生が言うとすごい・・・なんか・・・卑猥」
「・・・それ、褒め言葉ってことで受け取るよ」
「ほ、褒めてない!あっ・・・」

白い首筋に唇を這わせる。

「大丈夫。瞳術は発動したりしないから」
「っ!そんなとこで喋らないでよ!」
「・・・感じる?サクラ反応いいな」
「ヤ、ヤダ!」
「俺としてはすごく嬉しいけどな・・・」
「う・・・」

翡翠色の瞳に涙を浮かべて俺を見てくる。


「でもその顔、他の奴に見せて欲しくないなぁ」
「な、何それぇ・・・」
「サクラのそんな顔、誰も見たことないよね」
「・・・っ、そういう言い方やめてよ」
顔を背ける。

ヤバイな・・・ちょっとイタズラするだけのつもりだったのに・・・
自分でも驚きだ。
額当てしてない時はいつも閉じてるのに。
両眼でサクラを見たい。
閉じていても開いても左眼が熱い。

俺が首やアゴにキスするたびに身体をよじらせるサクラ。

俺の服をつかみ、肩で苦しげに呼吸している姿がエロ過ぎる・・・
少し前まで可愛らしい女の子だったんだけどなぁ・・・いつの間にこんなおとなに・・・


って俺、すごいオヤジっぽい・・・?

まだそんなしょうもない事を考える余裕はあったみたいだ。

「サクラ、俺を見て」
顔を背けているサクラに声をかける。

「先生・・・」
「うん?」

「・・・する、の?」
「なにを?」
「っ!」


「なにをするの?」
「あっ・・・」


お腹に手を乗せ上に向かって指でなぞる。
服の上からでも締まっているのがわかる。

「しっかり鍛錬してるんだね、エライぞ、サクラ」
「な、何言って・・・っ!」

胸の下で手を止める。

「先生!こ、この間私を抱こうなんて思ってないって言ったじゃない!」
「あれは通過儀礼の話としてのことデショ。今は違う。サクラのことが好きだからサクラを抱きたい」

目を見開いて俺を見つめてくる。

「先生・・・そんな顔したらズルいわ・・・」
涙を溜めた瞳はいつも以上にキレイで、何より扇情的なことをサクラは自分で気付いていない。
当たり前だけど。

「俺どんな顔してる?」
「い、色っぽい・・・けど、ちょっと・・・怖い」
目をそらして恥ずかしそうに言う。


いつも気丈なサクラがそんな表情をする事を知っているのは自分だけだということに興奮していた。

胸の下に置いた手から鼓動が伝わってくる。
腰まで撫で下げる。

「っ!」
「俺が怖い?」

「せ、せんせぇ・・・」
「・・・ダメ?」

「・・・先生の目を見てると言いなりになっちゃいそう」

それは俺のセリフなんだけどな・・・
そんな純粋な瞳で見られたら触れたくてたまらなくなる。


「言っとくけど瞳術は使ってないよ」
「写輪眼は幻術が使えるじゃない・・・」
「だから使ってないってば」
「そっか・・・幻術に掛かってるわけじゃないのか・・・」


「幻術掛けて抱こうとしてるってこと?俺のことそんなひどい人だと思ってたの?ショック・・・」
「だって・・・じゃあなんで先生ならイイって思うんだろう・・・」
「サクラ・・・」


腰から太ももにかけてなでると体を震わせる。
「っ・・・!」


「サクラ・・・」
「せん、せ・・・!」
抱き付いてくるサクラ。


「イイの?」
「・・・・・・・・・」
小さく頷く。


「最初は先生がいいのなんてサクラは言っていたけど俺の次の奴なんていないよ」
「え?あっ・・・!」


「最初だけじゃなくてサクラの相手はずっと俺だけだから」
「ん・・・!」


「んん・・・っ」
何度も何度も深く口付ける。

「っ・・・は・・・」
「せん、せい・・・」
瞳を潤ませたサクラ。

「先生・・・気持ちいい・・・」

「せん、せ・・・もっと、もっとして・・・ください」
「な、何言って・・・」

「お願い・・・」
腕を伸ばしてくる。


「っ・・・!」
俺の方が翻弄されている・・・


身体が熱くなり着ていたTシャツを脱ぎ捨てる。

胸や腹の傷に触れてくる。
「傷だらけね・・・」
「うん・・・」


「っ!」
古傷を指でなぞられる。

「せんせ・・・?」
「くっ・・・」
傷跡をなぞるサクラの指が熱くて反応してしまう。


「ふふっ、気持ちイイ、の?」
「・・・っ!」
顔をのぞき込んでくる。
素でやってるんだから怖い・・・

「先生」
「・・・うん?」


「先生のそんな姿を見たら恥ずかしくなってきちゃった・・・」
「・・・赤い顔でそういうセリフは俺を煽るだけだよ。イヤだって言われても途中でやめられないからね」
「・・・はい」


お互い覚悟は決まったらしい・・・



実際、もう触れたくて仕方がなかった。
やめてって言われてやめられる自信はない。

「サクラ・・・」
「せんせ・・・い」


「っ・・・」
深く口付けて首元のジッパーに手を掛ける。


するとそこにインターフォンが鳴った。
もちろん無視してジッパーを下ろそうとした。


またインターフォンが鳴る。
「せ、せんせ・・・」
ジッパーが胸元まで下がった。

白い肌が現れる。


「先輩!カカシ先輩?」
今度は声がしてドアを叩く音がする。


「・・・くそ」
「先生・・・今のって」
「サクラごめん。ここに居て」

仕方なく布団を優しく掛けて玄関に向かう。


サクラのブーツを隠す。
鍵は掛かっていた。

サクラが家に上がってきた時に締めてくれたんだろう。
防犯的には締めてくれて正解だけど、男の家に来て鍵を締めるとか・・・
まぁいいか。

「先輩!?せんぱ・・・」

ドアを開ける。


「テンゾ・・・」
「ヤマトです。出てこないから焦りましたよ。って先輩なんで裸なんですか・・・しかもマスクもしてないし・・・」
「ふ、風呂入ろうとしてたの!」
「風邪引いてるのに・・・入らない方がいいんじゃないですか?」

お母さんか!

「・・・何しに来たの」
「先輩の具合いが悪いって聞いたからお見舞いに来たんじゃないですか・・・!」

「いらないからその手土産だけ置いて帰りなよ」
テンゾウの手から袋を受け取る。
「えええ!?ひどい・・・」

「じゃあね」
「あ!」
ドアを閉める。

「せんぱーい!もう・・・お大事にー!」
テンゾウがドアの前から去る。


「はぁ・・・」
バレてはなさそうだな・・・


寝室に戻る。

「先生・・・」

「今のってやっぱり隊長ですか?」
「うん」

ベッドに二人で座る。


「サクラ」
「は、はいっ」

抱き寄せると身体を固くする。


「今日はもう何もしないからそんなに緊張しないでよ」
「無理よ!」
真っ赤になって見上げてくる。


「いつもと違うカカシ先生を見ちゃったのに・・・それに・・・」
「?」


「先生、Tシャツ着て!」
「あ、ごめんごめん」
脱ぎ散らかしたTシャツに腕を伸ばす。


「サクラのことも脱がせたかったなぁ・・・」
「な、何言ってんのよ!」


「だって・・・」
Tシャツを着る。

「ふふっ」
「なに?」

「先生可愛い」
「ナニソレ」


「あからさまにガッカリされると嬉しい・・・」
「そりゃガッカリするよ。サクラと思いが通じ合ったのに・・・」
「でも先生、気が早過ぎるわ・・・」
「そ、そうか。ごめん、嬉しくて」

サクラが体勢を変えて抱きしめてくる。
「・・・また今度、ね」
「う、うん」

「隊長のおみやげ食べましょ」
「そうだね」
「私、お茶入れるわ」
そう言ってベッドを下りるサクラ。


「サクラ」
「はい?あっ」

腕を引いて抱きしめる。
「せ、先生」
「ちょっとこのまま」
胸に顔をうずめる。

座っているから高さがちょうどいい。
サクラに包まれてるみたいで安心する。

「先生、大丈夫・・・?また具合いが・・・」



「・・・本当に俺でいいの?」
「え?」

「俺、サクラより一回り以上歳が上だし、元上官だし上司だし・・・」


「先生、今更何を言ってるのよ」
少し間があって、頭の上から優しい声がして顔を上げる。


「もちろん最初は先生としてとても尊敬してたわ。強くて優しくて仲間思いで部下思いで、自分のことは後回しで私たちを助けてくれた。なんて素敵な人が先生になってくれたんだろうってすごく嬉しかったの」

「サクラ・・・」

「子どもの頃は先生やナルトに守られてばかりだった私は、どうにかして同じところに立ちたかった。師匠のおかげで色々学んで私なりに頑張って修行したら、私も先生たちと同じものが見えるようになってきた。そうしたら子どもの頃には見えなかった、先生が背負っているものや守っているものに気付いたの」

翡翠色の瞳は生き生きして輝いていた。


「気付いたらもう先生のことが好きだったわ」

困ったような照れた表情をする。
サクラが小さい頃の面影を見たように思えた。

「先生だからとか上司だからとかじゃないの。今まで気付けなかった先生を知るたびに好きになっていったのよ。先生に守られているだけでなくて、私も先生を守れる人になりたいっていつも思ってる。戦いの中でもそうだけど、先生が寂しい時や悲しい時も私がそばにいて守りたいの」



まさかそんな話を聞けるとは思わなくて不覚にも涙が出そうになる。
こんなにそばに自分を想ってくれる人がいたなんて・・・


「サクラ」
「はい」
ベッドから立ち上がる。


「ありがとう。すごく嬉しいよ」
今度は俺が包み込むように抱きしめる。

「先生・・・」
「俺なんかにはもったいないなぁ」


サクラが腕を背に回して抱きしめ返してくる。
「俺なんかとか言わないの」

「はい」
怒られてしまった。


「さ、お茶にしましょ」
「うん」

自分のことをこんなにも思ってくれる人がいるのだと分かると強くいられるのだと実感した。

俺にも普通の人生を送りたいという気持ちは残っていたみたいだ。
今までいろいろとツライことや悲しい出来事が何度もあった。
忍なのだからそんなことは当たり前で、自分には普通の人生を送る資格なんてないといつも心のどこかで思っていた。
他の里の忍に恨まれて、付け狙われて戦いになって・・・
いつ死んでも仕方のないことだと思っていた。


でも、今は違う。
俺はサクラが好きでサクラは俺を好きだと言ってくれる。
里の人たちとサクラと穏やかな生活を送れるようになりたい。
里を良くするために生きていこう。
いつかきっとそんな日が来る。


人に想い想われるということは、今は見えないまだ先の未来を楽しみに思えることなんだとそう思えた。

−END−



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