■ 芽生えた感情

サイ→サクラ なお話。 本編の3年後くらいの設定です。

両親と離れて念願の一人暮らしを始めた私。
腕力には自信があるけれど得体の知れないものには対処出来ない。

気のせいだと自分に言い聞かせてはいるのだけれど、この部屋が事故物件だなんてあとからいのに聞かされてしまい、物音が聞こえるだけで慌てるようになってしまった。
確かに破格の値段で貸し出していたから何かおかしいなとは思ったのだけれど安月給の駆け出し上忍にはおいしい物件だった。

任務から帰ってきた途端、部屋の奥で物音がする。
何でもないと自分に言い聞かせても怖いものは怖い。

こんなことならナルトとサイに付き合って夕飯を一緒に食べてくれば良かった・・・
任務の帰りに二人が誘ってくれたのだけれど、今日は帰りが遅くなったし疲れていたので早く寝たかった。

玄関から部屋に上がれない・・・
かれこれ何分経っただろう。

ピンポーン

「きゃ!」
突然のインターホンに飛び上がる。

だ、誰よ・・・
ドアスコープから外を確認しようとドアの方に振り返る。

でも・・・誰もいなかったら・・・
怖くてのぞけない!

トントン

「!!!!」
今度はドアを叩かれる。

「ヤダヤダ!誰よ!」

「サクラ?どうかしたの?」
耳を塞いでしゃがみ込むと外から聞き慣れた声が聞こえた。

「サイ・・・?」
「サクラ忘れ物だよ。医療バッグを僕に渡したままだっただろう」
慌てて自分の腰元を見る。
「え?あ、ホントだ」

医療忍者としてどうなの、私・・・


なんだ・・・
ホッとしてドアを開ける。

「一体どうしたの?電気も付けずに。なんか悲鳴が聞こえたし」
サイはキョトンとしている。

「えーと、あの・・・」
お化けが怖くて・・・なんて恥ずかしい・・・


「大丈夫?」
中に入って腕を引き立ち上がらせてくれた。


「ありが・・・」

ガタッ

「!!」
また物音がしてサイの腕をつかむ。

「サクラ?」
「物音!今、音がしたでしょう!?」
「したね」
「なんでそんなに冷静なのよー!」

ガタガタッ
「ひゃっ!」

また音がして慌てる。

「あ」
「きゃあ!」
ブーツを脱ぎかけだったのでつまずいてサイの方によろめいてしまった。

そのままサイに抱えられて玄関でひっくり返る。
「いった・・・くない・・・?」
「サクラ大丈夫?」
「ごめんね、ありがとう」
サイの上に乗ってしまった・・・

しっかりと抱きとめてくれたのでどこも痛くない。
身体を起こそうとするとサイの表情がおかしい。


「サイ、どうかした?どこかぶつけちゃった?」
「いや・・・サクラ結構女らしいんだね」
「・・・は?」

「もっとこうゴツゴツしてるんだと・・・」
肩や腕を撫でられる。

「な、何言ってんのよ!失礼ね!!」
サイが首をかしげる。

そう言われると私もサイの腕や胸に触れていることに気付く。

腕も身体も意外とガッチリしている・・・もっとヒョロいのかと思っていたのに。
私より色も白いくせに・・・

不覚にもドキッとしてしまった。
キレイな顔だし・・・って何言ってんだろ。
男らしいとか、サイのことをそういう風に考えたことなかったのに。

「サクラおりてもらえる?」
「え、あ、ごめん!ありがとうね」
「ちょっと上がるよ」
「う、うん」

サイについて部屋の奥に進む。
ベランダのガラス戸をゆっくり開ける。

「なんだ」
「え?なによ」
「ほら」

サイの肩に手を掛けて身を乗り出す。

「猫・・・」
ベランダに子猫が二匹いてじゃれ合っている。

「なんだ・・・」
ホッとしてサイの上に脱力する。

「・・・サクラ、重い」
「はー、猫だったのかー」
「サクラ、重いってば」
「サイ、ありがと。助かったわ」
「うん。別にいいからどいて」

こんなやり取りはいつものことだ。
さっきのサイへの気持ちはなんだろう。


「じゃあ僕、帰るよ」
「どうもありがとう。これで今夜からゆっくり眠れるわ」
「戸締まりは気を付けなよね」

「へ?あ、うん・・・」

また明日、とサイは帰っていった。
サイが戸締まり気をつけろとか・・・なんか意外。


***
「サクラ」

里の図書室で資料整理してると小さな声で呼ばれる。
一般の人は来ない図書室の奥にいたので驚いた。

「あら、どうしたの?」
「サクラはココだって聞いたから」
サイが向かいの椅子に座る。


「今日は休みなの?」
「うん。ちょっとサクラに診てもらいたくてさ」
「私に?何を?」

「僕、心臓の病気かも知れない・・・」
「はい?みるって診察ってこと?しかも心臓って・・・」

何をふざけているんだろうとサイを見ると真剣にこちらを見て話しているので真面目に話を聞くことにした。


「それで?」
「最近、胸が・・・たまにズキッて痛いんだ」
「サイって今まで大きな病気したりしてないわよね?」
「うん」

「暗部にいた時に大怪我したとかは?」
「そうだな・・・大きな怪我はなかったと思う」
「そう。ちょっといい?」

サイに腕を伸ばし眼の動きを診たり首元を触診する。

・・・白いなー。

「ちょっと熱っぽいわね・・・他には何か違和感ないの?」
「うーん、鼓動が早くてソワソワして何も手につかなくなって・・・だからそういう時は落ち着こうと思って絵を描くんだけどボーッとして胸が痛くなってきて描けなくなるんだ」

「どんな時にそうなるの?」
「いつとは決まってないかな。考え事するとなることが多い気がする」

まさか・・・
いや、でも・・・

「それってアンタ、恋ってやつよ!」
「え、恋?僕が?そんなわけ・・・」

サイは心底驚いている。
表情の変化が乏しいサイだけれど最近ちょっと分かるようになってきた。

「好きならグイグイいっちゃいなさいよ」
「好き・・・なのかなそれに・・・グイグイって何を?」

「アンタ、その歳で何も知らないとか・・・ないわよね?好きな人を抱きしめたいとかキスしたいとかあるじゃない?」
「あぁ、そういうことか。僕にだってそういう欲はあるよ、要するにセッ・・・」
「あぁ!もう、言わなくてよろしい!」
「ごめん」
サイのこういう部分はどうにも慣れないわね・・・

「でもさ、嫌がられるんじゃない・・・?」
「人の好意を嫌がる人はいないわよ」
「・・・そういうもの?」

「本には書いていないこともたくさんあるわ。人の感情は難しいのよ。特に女子は。口ではイヤって言っても少し強引に来られた方が嬉しいって思うこともあるのよ」
「そうなのか、ありがとう。女子って面倒だね」
「・・・悪かったわね。ひとこと多いのよ、アンタは」


幾分スッキリした顔でサイは帰っていった。
私はと言うと、サイの成長が嬉しくて作業が手につかなくなってしまった。

いてもたってもいられなくなり、仕事を早めに切り上げていのに相談しに行くことにした。



「でね、サイが恋愛話してきたのよ!やっと人並みの感情が出て来たんだわ、本当に良かった」
「サクラ・・・アンタって本当に鈍いわね」
いのが目を細めて言う。

「ナルトたち七班が悩むわけだわ・・・」
「え?みんなが何?」
「いーの、アンタはそのままでいた方が平和だわ」
「ナニソレ、どういう意味よ」
「そのうち分かるんじゃなーい?」
いのは任務があるからと帰って行った。


***
今日は執務室で同期のメンバー全員が集まり、片付けをしていた。
執務室の書類は膨大でこの大人数でも片付くかどうかという様子だった。
それでもシカマルが指揮を執っていたので今日中には終わるだろう。

それにしても大人数だな・・・
みんなが一斉に集まるって最近じゃなかなか見られる光景ではない。

「サクラ」
誰かに呼ばれて振り向く。

「ちょっといい?」
「どうしたの、サイ」

「この書類は要るのかなって」
サイの手には山積みの書類。
一番上の書類を手に取り、内容を確認する。

「それは捨ててしまって大丈夫よ」
「分かった、ありがとう。ボーッとするなんてどうかしたの?」
「同期が集まってるのって不思議な光景よね」

みんなの中にはサスケくんもいる。
ナルトとじゃれ合っていた 。
口元が緩んでしまう。
夢にまで見た光景だから・・・



「好き、なんだね」
「え?」
「ナルトとサスケくんの事」
「・・・何言ってんのよ。なんだか嬉しいの」
「サクラ・・・」
私はナルトとサスケくんに気を取られ、サイの変化には全く気付けなかった。
あんなにも手が熱かったのに。


***
執務室の大掃除も終わってみんなでご飯を食べに行って解散したところだった。
帰りの方向が一緒のサイと川沿いを歩く。

「でね、カカシ先生が・・・って、サイ、聞いてる?私ばっかり話してるじゃない」
「・・・・・・・・・」
「サイ?」
返事がないので腕をつかむ。


「熱っ・・・」

一瞬、しまったという表情をしたサイ。
そのまま歩いていこうとする。


「サイ、待ちなさい!」
つかんでいた手に力を込める。
「なんでもないよ」
無表情で手を振り払われる。

「サイ!」
肩をつかんでこちらを向かせる。


「・・・・・・・・・」
目を合わせようとしない。
暗がりで分かりにくいけれど顔が赤い。

「っ!」
サイが態勢を崩して倒れて来た。
慌てて抱き留める。

「アンタ・・・熱があるのね」
「平気・・・」
「どこがよ!自分で立てないくらいフラフラのくせに。ほら、つかまって」
サイの腕を肩に回す。

「大丈夫・・・だから」
それでも抵抗するサイ。

「いい加減にしなさいよ!全く」
気を失わせてやろうかと思ったけれど脱力した人間はすごく重いのだ。
倒れられたら困る。

おとなしくなったサイを抱えて連れて帰る。
サイの家はまだ先だった。


***
ベッドに寝かせて額を手ぬぐいで冷やす。
サイは一息ついたのかおとなしくしている。

「風邪みたいね。病気は治せないから・・・ごめんね」
手ぬぐいの上から手を当てる。

「手当て」って本当に効き目があるって私は思っている。
傷を癒やすためにチャクラを送り込むのも患部に手を当てるし、手を当てて経絡を刺激すると治りも早くなるのだ。

「木ノ葉病院に行って薬を調合してくるわ」
額から手を離し立ち上がる。

「待っ・・・て」
「サイ?」
指先をつかまれて驚く。



「そばに、いて・・・」
「・・・・・・・・・」



私は驚いてしまった。
まさかサイがそんなことを言うとは思いもしなかった。


でも・・・サイだって具合が悪かったら気も弱くなるか・・・
可愛いところあるじゃない。

ベッドのそばにしゃがみ、つかまれていた手を握り返す。


「分かったわ。だから眠って」
「・・・うん」


すぐに小さな寝息が聞こえてきた。
額の手ぬぐいを乗せ直し髪なでる。
思った通りサラサラと指の間を流れていった。


***
「それで?サイさんのそばで一夜を過ごしたわけ?」
目をキラキラさせながら楽しそうに聞いてくるいの。

「気付いたら朝でサイに起こされたわ。そのままベッドにもたれ掛かって寝ちゃってた」
「サイさんの反応は?」
「さすがに驚いたのか混乱してたみたい。なんでサクラがいるの?とか言って」
「覚えてないってこと?」
「ううん、なんとなくは覚えてるみたい。夢だと思ってたみたいよ」
「なるほどねー」
いのが含み笑いをする。

「そういえば!この間のイケメンとのご飯はどうだったのよ?」

話が全然別の話題に飛ぶ。
女の子同士で話しているとよくある事だ。


「医療班の若手のホープだし、顔までイケてるとかすごいじゃない!」
木ノ葉病院で一緒に研修に入った上忍のことを言っているらしい。


「うーん、話はすごく合ったのよ。でも付き合うとかはないかなぁ・・・」
「もったいない。ナルトにもサスケくんにも応えないサクラは誰を選ぶのかってよく聞かれるわよ?」

「・・・なにそれ。何かすごいイヤな女みたいじゃない」
「仕方ないわよ、あの二人有名なんだもの」
「・・・・・・・・・」

ナルトもサスケくんも今では里の英雄だからそんな二人と同じ班の私は何か勘違いされているらしい。
そんなことは昔からなので慣れてしまったけれど。

「そういえば、その帰りに相手と別れてすぐに偶然サイに会ったの。いつも以上に無表情だったからビックリしてどうかしたのって声を掛けたのよ。そしたらアイツなんて言ったと思う!?」
「?」

「『へぇ・・・あの程度でいいんだ』とか言うのよ!しかもすっごい怖い顔して、それだけ言って行っちゃったんだから!この間看病してあげたことは忘れたのかっつの!可愛いとこあるじゃないなんて思った私がバカだったわ」

捲し立てるように一気に話したので息が切れる。
あれ・・・なんで私こんなに怒ってるんだろう。

「サクラ・・・アンタ本当に鈍いわね!」
「何がよ」
「この間のサイさんの恋愛相談といい、それってヤキモチ妬いてくれてるんじゃない」


は?
いのの言う事の意味がわからず思考が停止する。

「ないない!そんなことあるわけないわ。アイツにブスとか言われてんのよ?」

「サイさん顔キレイだしさー、まんざらでもないでしょ?」
いのは私の話を聞いていないようだ。


「・・・そうね、顔はキレイよね。確かに優しいし困ってるとすごく良いタイミングでサイがいてくれて助けてくれる・・・」
あれ・・・私、サイの事褒めてる・・・

「さ、さすが暗部出身よねー!よく気付くわよねー」
「いやいや・・・それアンタのことよく見てるからってことでしょー!」
「だから!それはないってば」
いくら否定してもいのは聞いてくれなかった。
それからと言うもの、いのが変なことを言うからいろいろと考えてしまってそれからサイを避けるようになった。

幸か不幸か、一緒の任務に就くこともなく1ヶ月経っていた。


***
研修が終わって木ノ葉病院から出ると入り口でサイが待っていた。
この間看病したお礼にってご飯を作ってくれるらしい。

会ったのは「その程度でいいんだ」と言われたあの日以来だったからどういう態度を取ったら良いのか分からなかったのだけれど、いつもと変わらないサイの口調にホッとして暮れてきた道を歩く。



「おじゃましまーす」
促されて中に入り、私の後にサイも玄関を上がる。


「サイ、電気どこ・・・」
電気を点けようとサイを振り返った瞬間、壁に追い立てられた。

「な、なに?」
「・・・バカなの?」
「は?」


左手首をつかまれて、脚の間にサイが膝を入れているので見動きが取れない。
力を入れてもビクともしなくて焦った。

「なんの疑問も持たずに付いてくるなんて」
「それは、サイだから・・・」
「男として見てくれてないってことか・・・」
泣き出しそうな悲しげな笑みを見せる。


「サイ・・・どいて、よ」
「・・・・・・・・・」
「サイ」

下を向いたまま何も言ってくれない。
怖いなんて感情は一切なかった。
私よりサイの方が何かに怯えているように見えた。

なのでいつもみたいに強気に出てしまった。
これが間違いだった。

「悪ふざけならいい加減にして」
「・・・悪ふざけ?」

サイが顔を上げる。
「僕がふざけているように見えるの?」
電気が点いていないのに真っ黒な瞳が光る。

さっきまでと違う雰囲気に身体がすくむ。

「サ・・・」
サイから目が逸らせない。
こんなに近くでサイを見たのは初めてだった。

サラサラとクセのない髪も感情を読み取りにくい瞳も暗闇に溶けてしまいそうに真っ黒でキレイだった。

つかまれている手首に力を込められ、ビクッとしてしまった。
痛かったからじゃない。
あまりにも優しくつかむから驚いてしまった。
つかまれた腕の力は抜けていたのですり抜けることは出来たはずだった。
なのに動けない。

さっきとは対照的に憎らしいほどに白い肌が月明かりで映えて魅入ってしまう 。

ゴクッと自分の喉が鳴る音がした。
どうにかしてこの状況から抜け出したくて声を出そうとしていた。

「なんで・・・」
「・・・え?」


「なんで僕を避けてるの?」
「べ、別に避けてなんか・・・」
「避けていただろう?最近気配を感じたすぐ後に離れて行って僕を避けていたじゃないか」
「それは・・・」
忍同士、こういうことはすぐにわかってしまうので厄介だ。

「サクラがナルトやサスケくんを想っているならそれで良かったんだ・・・だけど君は・・・」

サイは切羽詰まった表情で苦しそうに話す。

「君はナルトもサスケくんも選ばなかった」
「・・・なんでそんなこと分かるのよ」
「分かるよ!!」
サイらしくない強い口調で言われて驚く。

「ずっと、僕はずっと君を見てきたから」
「・・・・・・・・・」
せつない表情のサイに胸が苦しくなる。


「なのに君はナルトでもサスケくんでもない、僕でもないヤツと一緒にいた」
「あれはたまたま帰りが一緒に・・・」

「こうやって・・・君に触れるのが僕じゃない他の誰かだって考えたらイヤでたまらなかった」
私の言葉は遮られ、手に力が込められる。

だいぶ間があって小さく呟く。

「それって・・・好きってことなんだろうって思ったんだ」
サイの手が頬に触れ、顔を上げさせられた。

「僕だけのものにしたい。この間気付いた。看病してくれるのを見てサクラを好きだって感じたんだ」
「な、何言って・・・」

サイとの距離は数センチだった。
あまりにも近くて顔を逸らすことも出来ない。

今まで見たことのない切羽詰まった表情をしているサイに胸が痛くなる。

「こんな不安定な感情、今まで感じたことなかったし信じてもいない。だけどサクラのそばに居ると君に触れたくなるし、一緒にいない時もふとした時にサクラのことを考えているんだ」

あまりにも突然のことで頭が追いつかない。

サイが・・・私を好き?

「いつもキャンバスに絵を描いて気持ちを落ち着けようとするんだ。でもそこにはサクラの絵ばかり描いている。君に言われたとおり抑えられない感情があって目の前に居る君を抱きしめたくてたまらないんだ」

「ちょっと・・・真っ直ぐ過ぎるのよ!もうやめてよ、恥ずかしい・・・」
「サクラが言ったんじゃないか」
「え?」

「人の好意を嫌がる人はいないからって」
「・・・・・・・・・」
「女の人は少し強引なくらいがいいんだって・・・言ったじゃないか」

真っ直ぐな瞳に見透かされたようで何も言い返せない。
確かに私はそう言った。
言ったけれど・・・

何も気付いていなかったわけじゃない。
気付かないふりをしていただけだ。

サイを避けていたのがその証拠だ。
サイの言動や行動に動揺してサイを避けていた。
いのに言われてからずっとサイのことを考えている自分がいた。

サイからの好意が嬉しいのに、サイのことを男の人として見てしまうようになった自分の感情を認めるのが怖くて避けてしまっていた。

こんな風に追い立てられて、ここ最近の自分を振り返って恥ずかしくなる。

「・・・サクラ、顔が赤いよ」
「う、うるさいわね」

「・・・それは、期待してもいいの?」
「え?」

サイを見ると潤んだ瞳がキレイで吸い込まれそうになる。

「そんな顔されたら期待してしまうだろ・・・」
「っ・・・!」

サイの顔が近付く。

「・・・サクラ」
「ちょ・・・まっ、待って!」

「・・・もう充分待ったよ」
「・・・っ」

鼻が触れ合うギリギリでのサイの低音は心地良くて聞き入ってしまう。


「サクラ・・・本当に嫌なら抵抗して」
「!!」

そんなのズルイ・・・

「・・・・・・・・・」



サイの唇は思っていたものとは違った。
薄い唇は冷たいものだとばかり思っていたのにとても熱かった。

「・・・ん」

「サクラ・・・」
「サ、イ・・・」



「サクラがナルトやサスケくんを選んだなら諦めようだなんてもう思えない。サクラ、僕を・・・選んで」


サイのせつない表情に胸をつかれる。
もう隠せない。
隠す必要もない。

「サイ・・・私ね、あなたを意識してしまって避けていたの。今までとは違う、あなたのことを男の人として思ってしまうようになった自分の気持ちが照れくさくて・・・」
「サクラ・・・それって」

つかまれている手に力が込められた。


「あなたに会うと気持ちが溢れ出しそうだったの」
「サクラ、言って」
「え?」

「僕を・・・どう思っているのか、言ってくれ」
「わ、私・・・」
恥ずかしくてうつむいてしまう。


「サクラ・・・」
下りてきた髪をかきあげ顔を上げられる。

「僕を見て、言って」
「あ・・・」

普段からは考えられない顔をするサイが愛しくてたまらない 。



「私・・・サイが好き、よ」
「サク、ラ・・・」

「いつもあなたは私のそばにいてくれた。楽しい時はもちろん、苦しくて悲しい時も。そして私を助けてくれた。挫けそうな時は支えてくれた。いつの間にかあなたを意識して、気が付いたら好きになっていたの」


驚いているサイに私は勢いのまま話し続けた。


「あなたへの気持ちに気付いたら・・・」
「・・・っ」

私の言葉は遮られた。

「・・・サ、イ」
「・・・っ、はぁ」

いつも冷静そうなサイからは思いも付かないくらい荒々しいキスだった。

「サイ、待っ・・・て」
「無理、だよ」


「っ!!」
壁際で腰を押し付けられ抜け出せない。

「サ、イ・・・っ」

するとサイに軽々と抱きあげられる。
「!!」

「な・・・」
「玄関じゃイヤだろう?」


「へ?なにする気・・・」
「なにって、セッ・・・」
「あー!もう、ハッキリ言わなくていいから!」


サイは私を抱えたまま少し考えるような表情をした。

「君のことがもっと知りたくてたまらない。だからベッドに連れて行く」
「!!」

「これでどう?」


「・・・75点」
「及第点ってことだよね?」
「・・・・・・・・・」
ニコッと笑われてスタスタと奥の部屋に連れて行かれる。
真っ直ぐに言われてしまって何も言えなかった。

ベッドに降ろされたら私も同じ気持ちだと言おうと思う。

−END−


夏頃にフォロワーさんと盛り上がったお題で書きました。

【お題】
・今まで自分の中になかった「恋愛感情」という不安定な感情を信用していないサイ
・サクラへの恋心に自覚出来ずにサクラ本人に相談してしまう
・その後サクラへの恋愛感情に気付く


inserted by FC2 system