■ 覚悟を決めた誕生日
「・・・・・・・・・」
私は今、とんでもなく間抜けな顔をしていると思う。
もうすぐ4月とは言え、夜はまだ寒い。
それなのに部屋の窓は全開で寝巻き姿のまま立ち尽くしていた。
突然ベランダに現れたナルトのせいだ。
話は一週間前にさかのぼる。
***
一緒に任務を終えた帰り道、ナルトが言い出した。
「サクラちゃん来週誕生日だな」
「そうよ、よく覚えてるわね」
「当たり前だってば!ちっさい頃からこの日は忘れたことないんだぜ」
嬉しそうに話すナルトにニヤけてしまいそうになる。
そんな風に答えてくれるのを待っている自分がいる。
ナルトは私の誕生日をいつも祝ってくれるから。
「でも俺、これからまた任務が入ってるんだ・・・」
「そう」
「・・・ちょっとはガッカリしてくれてもいーんじゃねーの?」
「別に?」
「サクラちゃーん」
スタスタ歩く私の後ろで慌てるナルト。
・・・ガッカリしてるわよ。
思いっきり!
そっか・・・今年はナルトいないのか・・・
「でもでも!俺、良い事考えたんだってばよ!」
「なによ」
「それはヒミツ!」
楽しげに笑うナルトを見て、また嬉しくなってしまう。
「とにかく夜行くから待っててくれってばよ!」
「え?夜って・・・」
「じゃあ俺、カカシ先生に呼ばれてるから行くな!」
「あ、ナルト!!夜ってどういうことよー!」
行ってしまった・・・
夜っていつの夜なのよ!
***
と、言うようなことがあって「夜行くから」とだけ言い残してナルトは行ってしまったのだ。
いつからいつまで任務なのかも、いつの夜待っていればいいのかもわからなくて、先週から夜ふかしをしてナルトを待つハメになってしまっていた。
・・・悔しいけれど来てくれるのを楽しみにしている自分がいる。
誕生日は明日。
連日の夜ふかしのせいで今日は眠くて仕方がない。
ナルトが言いたかったのは、「誕生日の夜」に来るってことだったんだろう。
私は日付が変わる前にベッドに入ってウトウトしていた。
ふと気配がして目が覚める。
窓をコツコツと叩く音もするのだ。
ベランダに誰かいる。
まさかとは思うけど・・・
カーテンを開くとそこにはやっぱりナルトの姿があった。
慌てて窓を開ける。
「ナルト・・・」
「サクラちゃんお誕生日おめでとうだってばよ!」
そう言うと大きくてキレイな花束をくれる。
私は呆気に取られ立ち尽くしていた。
「サクラちゃん?」
「あ、りがとう。これ・・・」
花束を受け取る。
「俺が育てたんだ!包み方はいのに教わった!」
「そうなの」
「あれ・・・サクラちゃん嬉しくない?」
「ううん、嬉しい。ただ突然過ぎるのよ!アンタらしいけど・・・」
「俺、らしい?」
よく分からないって顔をするナルト。
「夜行くからっていつのことだか分からないし、アンタのせいで寝不足よ!」
「サクラちゃんそんなに俺のこと待っていてくれたのかっ!」
「え?いや、そういう訳じゃ・・・」
ないこともないんだけど・・・
まぁいっか。
「任務はこれからなんだ!だから行く前にサクラちゃんの誕生日を祝おうと思ってさ」
部屋の時計を見ると確かに日付が変わって私の誕生日になっていた。
私もナルトの誕生日は寝てるのを起こしてお祝いしちゃったしお互い様か。
「お花、キレイね。アンタ意外な才能持ってるわよね。植物の手入れ上手だもの」
「いのも褒めてくれたんだぜ。まぁサクラちゃんのために育ててたから他に育ててる花よりもっと気合入れてたけどな!」
「ナルト・・・」
「よし!じゃあサクラちゃん上着取ってきて!」
「はい?」
「その格好じゃ寒いってば」
「これからどこかに行くの?」
「うん。見せたいものがあるんだ」
部屋から上着を取って羽織る。
「あ、靴がないわ。取ってくる」
ベランダには靴を置いていない。
「大丈夫だってば、よっ!」
「!!」
「ちょ・・・っ!きゃあ!」
突然のことにバランスを崩し、ナルトの身体に腕を回す。
ナルトに抱えられて家を抜け出す。
「しっかりつかまってろよ?」
「もう!急過ぎるのよ、アンタは!」
深夜の風は冷たいけれど、お風呂上がりらしいナルトは温かくていいにおいがする。
「ナルト」
「うん?」
「お風呂上がりなんでしょ?湯冷めしちゃうわよ」
「だーいじょうぶ!こうやってサクラちゃんを抱えてればスゲーあったかいってばよ!」
「・・・・・・・・・」
月明かりに照らされて笑うナルトはなんだか凛々しく見えた。
「靴持ってくればもっと早く移動できるじゃない」
「そんなんダメだってば!誕生日なんだからこうやって抱えさせてくれ」
「これって私が嬉しいんじゃなくてアンタが嬉しいんじゃ・・・」
「あ、バレた?」
ニカッと笑うナルト。
「気ぃ遣わずにもっと寄りかかってよ」
「う、うん」
こうやってナルトに抱えられたことは何度もあるけれど、いつもは緊急時だから何も気にしたことはなかった。
今はなぜか意識してしまう。
「ん?」
ナルトが私の視線に気付いて笑う。
「な、何でもない」
「そっか」
「本当に嬉しそうね」
「だって任務でなく夜中にこうやってサクラちゃんを抱えてるんだぜ?嬉しいに決まってる!」
「またアンタはそうやって恥ずかしいことをアッサリと・・・」
「もう着くってばよ!」
着いたのは里が一望できる顔岩の下だった。
「よっ、と」
地上に降りてもナルトは私を抱えたまま。
「やっぱりキレイね、ここからの景色」
「うん!」
里の灯りを見ていると懐かしい気持ちになる。
自分が生まれ育った里なのだから懐かしいのは当たり前なのだけれど、嬉しくて悲しくて・・・切ない気持ちになる。
この里で生まれて、育って来られて良かったと本当に思う。
同期の仲間や上司はちょっと変わってて一癖も二癖もある人ばかりだけど、強くて優しくて仲間思いな人たちで家族みたいですごく大切だ。
この景色を見ているとみんなのことを思い浮かべる。
嬉しいのに胸が痛い。
「俺さ」
ナルトの方を見る。
いつもの青空みたいな瞳には里の灯りが写っていて涙目のようにも、ワクワクして意思を持ったようにも見えて不思議な気持ちがした。
「ここからの景色を見ていると胸が苦しくなるんだ」
「え?」
「悲しいわけじゃないんだ。あの灯りが光り続けているってことは里にみんながいるって分かるからすごく安心する。あの灯りの中にサクラちゃんがいるって、そう思うと安心するんだ」
「ナルト・・・」
ナルトは子どもの頃からここに来ていたのかもしれない。
寂しくなるとここに来ていたのかな・・・
「ここに来てあの灯りを見てると無性にみんなに会いたくなって胸が苦しくなるんだ・・・」
里の方を見つめている。
ナルトもこの景色を見て私と同じように思っていたんだ・・・
「俺、木ノ葉の里が好きだ。この里にいる人が大切なんだ。どんなに憎まれても、蔑まれても嫌われてもそう思ってこられたのはサクラちゃんのおかげだ」
眉をひそめて笑うナルトが私を見る。
「私・・・何もしてないわ・・・」
そう言ってもらえても私はナルトに何かしてあげられている気がしない。
ナルトと向かい合わせになるために手すりに下ろしてもらう。
不安定なのですぐそばにナルトがいて支えてくれる。
「もちろん先生たちやエロ仙人に綱手のばーちゃんたちのおかげでもある。けど同じ時に生まれて、同じ時間を過ごしてくれて一番一緒にいてくれたのはサクラちゃんだ。俺はサクラちゃんを好きでいることで何度も救われたんだ」
ナルトの言葉に胸が苦しくなって、口を開いたら涙がこぼれそうで見つめ返すことしか出来ない。
「サクラちゃん、誕生日おめでとう!生まれてきてくれてありがとう。俺はこれからもずっとサクラちゃんのそばにいたい。そばにいてサクラちゃんを幸せにしたいんだ」
大人っぽい優しい顔をしたナルトにびっくりする。
「・・・ナル、ト」
「・・・あ、ちょっと大げさになっちゃったな!ごめん!」
ハッとしたように私から手を放そうとする。
「ち、違うの!すごく嬉しいわ!」
「・・・サクラちゃん」
何も言えなくてただナルトを見上げていた。
支えられているので距離が近い。
恥ずかしくなって来て視線をそらしたくなる。
いつも視線をそらしてしまうのは私からだった。
ナルトは絶対に自分からそらしたりしない。
「・・・・・・」
光を灯した瞳が近付いてくる・・・
そらしたいのにその光に吸い込まれるようで出来なかった。
ナルトの瞳に自分の顔が映っている。
私はどう見えているんだろう。
ボーッと考えていてナルトの気配にハッとする。
キス・・・される・・・
そう思っても手すりからは動けない。
でも避ける理由もない。
心臓がものすごい音を立てて鳴っている。
顔が近づいて来た寸前でナルトが眉間にシワを寄せ動きを止める。
一瞬ギュッと目を瞑り、思いつめた表情で腕を引き、抱きしめられる。
「きゃ・・・!」
「好きだ」
「!!」
「好きで、ごめん・・・」
腕に力がこもる。
「ごめん、サクラちゃん」
「え?」
いつもと雰囲気が違う・・・
「ナルト?」
「サクラちゃんがサスケのことを好きなの分かってるのに好きでごめん。サスケのことずっと好きなの知ってるのに諦められなくて・・・ごめん」
そんな風に思ってたの?
こんなにも追い詰めてしまっていた・・・
ナルトは私をよく見てくれている。
私の嘘告白もあっさりと見抜かれていた。
いつも守っていてくれる。
ハッキリしない私をいつまでも待っていてくれる。
待っていてくれるなんて、私の勝手な思い込みだ。
ナルトは待っているつもりなんてないんだと思う。
ただ、私を好きでい続けてくれているだけ。
それを私が勝手に「待っていてくれる」って思いたいだけ・・・
思い上がりもいいところだ・・・
それを当たり前だなんて思ったことはないけれど、安心しきって甘えていた。
ナルトだっていろいろ考えて悩んでいたんだ。
そんなことにも気付かずに、私はナルトを傷付けてきてしまった。
それなのにナルトは私を好きでいてくれる・・・
私の中にあるサスケくんへの想い。
自分でも今はどういう「カタチ」なのか分からない。
憧れなのか、恋い慕う気持ちなのか・・・
第七班の仲間としての感情なのかな・・・
サスケくんと会って話がしたい。
話をして私の中にあるサスケくんへの想いもナルトへの想いも伝えたい。
サスケくんを目の前にしたら答えが出る気がする。
その時に自分の本当の気持ちが分かる気がする。
私の中でサスケくんへの想いが昇華出来ずにいるからナルトに向き合えないんだって分かってる。
それはナルトに今度は「嘘告白」だと思われないためでもあると思う。
今私の気持ちを伝えたとしても、ナルトは信じてくれない。
また嘘告白だと思われてしまう。
サスケくんへの気持ちにまだ整理がついていないことを見抜かれてしまう。
自分でも自分の気持ちに自信がないから・・・。
私が好きなのはナルトだということを伝えて信じてもらうには、私の中のサスケくんへの想いをサスケくんに話して、初恋を終わらせないといけないんだ。
ナルトの切羽詰まった告白に驚くと同時に頭の中がクリアになった・・・
ナルトの腕の力は緩まない。
背に手を回そうと動いたらナルトがビクッと反応した。
「・・・ごめん。俺、自分のことばっかでサクラちゃんの気持ち無視してるよな」
身体を離しナルトは真剣な表情で見つめてくる。
「サスケは必ず木ノ葉の里に連れ戻す。俺とサクラちゃんとの一生の約束だからな。それから・・・それからでいい。サクラちゃんは考えてくれ」
ナルトも分かってる。
私がサスケくんと話をしてケリを付けようとしていることを。
なんでも見抜かれてしまうんだな・・・
それでも唯一、ナルトも気付いていないことがある。
それは私のナルトに対する気持ち。
それだけはナルトにも気付かれていないんだと思う。
伝えたくてたまらないのに伝わらない。
このもどかしささえも伝えたい。
そのためにはナルトと一緒にサスケくんを里に連れ戻す。
ナルトだけに任せるんじゃなく私も一緒に・・・。
「私も一緒に」
「え?」
「私もナルトと一緒にサスケくんを里へ連れ戻す」
「サクラちゃん・・・」
「昔とはもう違う。私もナルトと肩を並べてサスケくんに近付くわ。そしてサスケくんを連れ戻そう」
驚いた表情で見つめてくるナルト。
私もナルトの目を見つめる。
「そうだな。サクラちゃんと一緒にサスケに近付いてるんだもんな!」
ナルトがいつもみたいにニカッと笑う。
風が吹いて身体を震わせる。
「やっぱり夜はまだ寒いな。帰ろうか」
「うん」
ナルトはまた私を抱きかかえて飛び上がる。
・・・温かい。
「ナルト」
「うん?」
「ホントありがとう。すごく嬉しい誕生日だった」
「そっか!良かった」
優しく笑ってくれる。
私の言葉で一喜一憂してくれる。
それがすごく嬉しい。
いつかその日が来たら、あの日の嘘告白で傷付けてしまったことも、今まで勝手な態度で傷付けてしまったことも全部謝りたい。
そして・・・自信を持ってナルトに私の気持ちを伝えたい。
その日が来るのはもうあと少し先・・・
−END−
サクラお誕生日おめでとう!
私の中での「ナルト→サクラ→サスケ」を完結させるために日々お話を書いているつもりです。
サクラはサスケが好きだったわけですが、それが今はどういうカタチなのかだれもが知りたいことだと思います。
ナルトは一途にサクラを想い続け、それを貫き通すでしょう。
サクラはナルトをどう想っているのか。
最近はそればかりをずっと考えていました。
サクラがサスケに会って話をして自分の気持ちを整理する。
そうしないとナルトとのことを考えられないのでは?というのが私の出した考えです。
例えサクラがすでにナルトのことを好きだとして、それを今ナルトに伝えてもナルトは信じないと思うんです。
前に言ってしまった「嘘告白」のせいでもあるし、ナルトはサクラの瞳を見て見抜いてしまうから。
だとしたらサクラに出来るのはサスケに想いを伝え、自分の気持ちに正直になり整理をつける必要がある。
そうすれば、ナルトにもサクラの想いが伝わるんじゃないかな・・・
すべて私の願望ですけどね。
サクラのお誕生日イベントで自分の書きたかったことが書けて光栄です!
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