■ 誕生日の訪問者
「今日はホントにありがとな!」
俺は玄関でみんなを見送る。
「こんなに大勢に祝ってもらったの初めてだ」
「残念だったわね、一番お祝いして欲しかった人が来られなくてー」
「う・・・」
いのにニヤニヤされて顔が赤くなる。
「・・・仕方ないってばよ。任務で出てんだし」
「今日の夜か明日の朝には戻ってくるって言ってたわよ」
・・・知ってるってばよ。
みんなが俺の誕生日会をしてくれる事になっていたのだけれど、前日からサクラちゃんは砂の里への任務が入り、来られなくなってしまった。
「みんな気を付けてな」
同期のみんなが手を振って帰っていった。
部屋に戻るとさっきまでの騒がしさを思い出す。
いつもより広く感じて寂しくなる。
一人にはもう慣れているはずなのに。
サクラちゃん今頃何してるかな・・・
「・・・風呂に入って寝よーっと!」
色々考えてしまうので寝ることにした。
久しぶりに夢を見た。
それも父ちゃんと母ちゃんの夢だった。
誕生日だったからなのか、俺が寂しかったからなのか・・・
何もない、ただ光が溢れている明るい世界に俺はいた。
目の前には会いたいと思っても会うことの出来ない両親がいる。
もうそれだけで幸せだった。
俺は笑顔で待っていてくれる二人のもとに走る。
「ナルト、お誕生日おめでとう。私達のところに産まれてきてくれてありがとうね!」
母ちゃんに抱きしめられた。
温かくていいにおい。
涙が溢れてくる。
「クシナ、次は僕に変わってよ!僕もナルトをギュッとしたい」
「ダメ。もうちょっと」
母ちゃんの腕に力が込められる。
「クシナばっかりズルいよ・・・」
父ちゃんはそう言うと母ちゃんごと俺を抱きしめた。
「夢でも嬉しいってばよ、ありがとう」
俺は二人に笑う。
二人は顔を見合わせ微笑んだ。
「あなたが一番お祝いして欲しかった人が来るわよ」
「え?」
すると急速に意識が引っ張られるような感覚がした。
「ナルト。どうか幸せな未来を。ずっと祈っているから、あなたが優しい世界を進めるように」
泣き笑いの表情で二人は離れていく。
ベッド横の窓からカタンと音がした。
そこで目が覚めた。
月明かりの眩しい夜だった。
眩しい?
カーテンは閉めたはず・・・
「もう!本当に不用心なんだから」
聞き慣れた声がして飛び起きる。
月明かりを背に受けた人影が窓枠にしゃがんでいた。
「ナルト、お誕生日おめでとう!」
「サ、サクラちゃん!?」
ニッコリ笑うサクラちゃんが俺を見下ろしていた。
俺は状況が飲み込めず、これも夢なのかとサクラちゃんを見つめた。
「任務終えて綱手さまに報告に行って、書類片付けたりお風呂入ったりして来たから遅くなっちゃった。でもまだ日付は変わってないわよね」
「いやいや、どっから入って来てるんだってばよ」
「窓が開いているのが見えたから」
「・・・・・・」
「10月なのに窓開けっ放しじゃ風邪引くわよ?不用心だし」
「そういう問題じゃないってばよ・・・」
色々おかしくて、俺は笑い出す。
「何よ、突然」
不思議そうに首をかしげる。
「さっき夢を見ていたんだ。夢に父ちゃと母ちゃんが出て来て、俺が一番お祝いして欲しかった人が来るよって言うんだ。そしたらそこで目が覚めて、サクラちゃんが現れた」
サクラちゃんは黙って俺の話を聞いてくれている。
「まさか本当にサクラちゃんが来るとは思わなかったよ」
俺は笑い過ぎて出て来た涙を拭う。
「ご両親にもお祝いしてもらったのね」
「うん!夢でも嬉しかった。俺の誕生日は二人が死んだ日でもあるから・・・」
さっきから涙が止まらない。
「ナルト」
「ご、ごめん。おかしいな・・・嬉しいのに。二人に会えて、サクラちゃんも来てくれて嬉しいのに・・・」
カタンとまた鳴った。
顔を上げた瞬間、サクラちゃんに抱きしめられていた。
「サク・・・」
「ナルト。お誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう」
ギュッと抱きしめられて涙が零れた。
母ちゃんから言われた言葉と一緒の言葉。
「産まれてきてくれてありがとう」
「生まれてきてくれてありがとう」
そう言ってもらえると、自分は生まれてきて良かったのだと思える。
子どもの頃周りの人間から疎まれ、無視されてばかりだった。
それがイヤで自分の存在を分かってもらいたくて、色々とイタズラをしたことを思い出す。
それでも人は俺の存在を認めようとはしなかった。
誰からも必要とされていないのだといつも思っていた。
イタズラは半分意地だった。
何かしていないと暗い孤独の闇に落ちて行ってしまうような気がした。
自分は生まれてきてはいけなかったのかと思うこともなかったわけじゃない。
誰かに自分の存在を認めて欲しかった。
今、目の前にはサクラちゃんがいて、俺の存在を認めてくれる。
俺が生まれてきたことに感謝してくれている。
こんなにも嬉しいことが他にあるんだろうか。
俺が子供の頃から欲しかったもの。
それが今、目の前にある。
そう思うと涙が止まらない。
「ナルト」
「うん?」
サクラちゃんは笑っていた。
「泣き過ぎよ」
「だって・・・嬉しくて」
「ご両親にもらった大切な命なんだから大事にしなさいよね。九尾の力があるからって無茶するのは禁止。他の人より回復が早くても痛いのは同じなんだから」
「う、うん」
「あんたを心配する人がいるってこと、忘れないで」
そう言うと優しく抱きしめてくれた。
10月の風は少し寒いけれど、サクラちゃんの体温が伝わってきて心地いい。
どれくらいそうしていただろう。
「サクラちゃん・・・」
「なに?」
「お願いが・・・あるんだってば」
「うん。お誕生日ですもの。なんでも言って?」
「本当?」
「えぇ」
俺は意を決して伝える。
「キス、しても、いい?」
「!?」
ガバっと離れるサクラちゃん。
「ほっぺたでいいんだ」
「あ、ほっぺたね・・・」
顔を赤くしたサクラちゃんは少し笑って小さくため息をついた。
サクラちゃんが手を伸ばして頬にふれた。
「サクラちゃん?」
「あんたが私にしてどうするのよ?私があんたにするんでしょ」
「へ!?」
今度は俺の顔が熱くなった。
顔を手で覆われていて動けない。
「!!」
シャンプーの香りがしたかと思った瞬間、俺は左頬に柔らかい感触を感じた。
離れるサクラちゃんをビックリして見つめた。
「・・・なによ、あんたがしてくれって言ったんじゃない」
「い、や・・・言ってないってば、よ」
「涙、止まったみたいね」
「え?あ、本当だ」
顔に触れると涙は止まっていた。
「じゃあ私、帰る!」
窓枠に飛び乗るサクラちゃん。
こっちを見てくれない。
「サクラちゃん!」
俺は腕を掴んだ。
月明かりでサクラちゃんの耳が赤くなっているのが見えた。
俺だけじゃない・・・
サクラちゃんもドキドキしてくれていたんだ。
「あ、りがとう。すげー嬉しい。こんな嬉しい誕生日は生まれて初めてだった」
「・・・・・・」
嬉しくて、思っていることが口をついてしまう。
「ま、まだ一緒にいて欲しいけど・・・明日も任務だもんな。ごめん」
掴んでいた腕を放す。
「私も、もっと・・・一緒にいたい。」
「え?」
すごく小さな声だったので俺の聞き間違いかと思った。
すると振り返ってサクラちゃんは笑った。
「じゃあ、また明日ね。遅刻しないでよね!任務一緒なんだから」
いつも通りのサクラちゃんは窓から飛び去っていった。
やっぱり聞き間違いだったのか?
まだ熱い頬を手のひらで押さえながらサクラちゃんの背中を見送った。
−END−
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