■ 限定月読 その後

2012年夏の「ROAD TO NINJA -NARUTO THE MOVIE-」のその後を書いてみました。

私は顔岩の階段に向かって走っていた。

元の世界に戻ってこられて、両親と一度家に帰ったけれど、別れ際のナルトの表情が気になってしまい、私はナルトを探していた。



探していたと言っても、ナルトのいる場所は何となく分かっていたのだ。


***
顔岩の階段を駆け上がる。
見上げると、ナルトが佇んでいた。

やっぱりここにいた・・・



なんて悲しい顔をしているんだろう。
今日は離れなければ良かった・・・

階段からは里を一望出来る。
灯りがキラキラと眩しいくらいだ。


頂上に近づき、ゆっくりと階段を登る。



手すりに腕をかけ、遠くを見つめるナルト。


階段を登り切らず、気配を断って立ち止まる。


というより、ナルトの切ない表情に立ちすくんでしまっていた。
なんて声を掛ければいいのか分からない。



独りにしたくない。


***
「サクラちゃん?」
気配は消していたけれど、視界には入る位置にいたので、ナルトは私に気付いた。
いつもならすぐ気付くのだから、何か考え事をしていたんだろう。

ゆっくり階段を上がる。

「どうした?」
「なんとなくここかなって。それに、ここからの景色が見たくなったのよ」
「そっか」

ナルトの横に並ぶ。

「向こうの世界でも、いつもここで話してたな」
「うん。私、ここ好きよ」
「俺も!」
ニカッと笑うナルト。

さっきの悲しげな表情が思い浮かぶ。

「やっぱりこっちがいいよな!みんなあの変な性格じゃ、頭痛くなっちゃうってば」
そう言って笑うナルト。

顔や手にいくつも傷がある。
多分、体にもメンマと戦った時の傷や打撲箇所がたくさんあるはずだ。


手すりにかけているナルトの腕に手をかざしてチャクラを送り込む。

「サクラちゃん・・・?」



「ご両親二人とも、優しくて温かい人だったわね」

ナルトの腕がピクリと動く。


「・・・うん」

「会えて良かったわ」
「サクラちゃん・・・」
呼ばれて顔を上げる。

涙目のナルトに胸が締め付けられる。



「お父さん、かっこよかったね」
「・・・うん」


「お母さんも素敵。あんな女性になりたいなぁ・・・」
「母ちゃん、サクラちゃんに似てたってば」
私は首を振る。

「ナルトに・・・そっくり、よ」
「サクラちゃん・・・どうした?」


「あんたが泣かないから・・・代わりに泣いてんのよ」




次の瞬間、私はナルトの腕の中にいた。

「ナル、ト・・・」
「嬉しかった。父ちゃんと母ちゃんに会えて嬉しかった・・・」
ナルトの声は震えている。


「でも・・・つらい、よ」
「・・・うん」

「父ちゃんと母ちゃんと一緒にいられて幸せだったんだ。家に帰って、ただいまって言ったらお帰りって言ってくれる人がいる。温かくて美味い飯を・・・作ってくれる人がいる」

ナルトの腕に力がこもる。

「優しく・・・怒ってくれる人がいる。俺にとっては、父ちゃんと母ちゃんとのことは初めてのことばかりだったんだ。俺がずっと、ずっと前から欲しいって思っていたものが向こうには全部あった」


「全部あったんだ・・・」
「・・・・・・」



「でも、俺はメンマじゃない。父ちゃんは四代目火影で、母ちゃんは九尾の人柱力。その2人の子どもだ」


「うずまきナルトなんだ」
「うん」

手に力が入って、また距離が縮まる。


私はそっと腕を回し、ナルトを抱きしめた。


ナルトは私の肩に顔をうずめたまま。

・・・泣いているのかな。


抱きしめられているから顔が見れない。


***
最初は向こうの世界が楽しかった。


お父さんお母さんがいないことが、嬉しかった。
小言も言われないし、自由だから。


好きなものを好きなだけ食べたり、両親がいない生活を満喫していた。
でも段々と寂しい気持ちが大きくなってきて・・・


いままで、少しもナルトの気持ちに気付けなかった自分に腹が立った。


ナルトはいつもこんな寂しい思いをしていたんだと気付いた瞬間、私はナルトの元に走っていた。
四代目火影の服を持って。


でもナルトは私とは逆で、両親のいる向こうの世界を幸せに思っていた。
そんなナルトに何も言えなかった私。


両親のいない一人の生活がどれだけ寂しくて悲しいものか分かってしまった私には、ナルトに「元の世界に戻ろう」なんて言えなかった。


元の世界に戻ったら、ナルトの両親はいない。


四代目火影の服を見せて、ナルトの夢を思い出してもらおうと思っていたのだけれど、それさえも出来なかった。


16年もの長い月日を、一人だけで過ごす生活はどれだけ寂しかったんだろう。
私には想像もつかない。
たった二、三日でとてつもなく寂しかったのに・・・
それを考えると胸が苦しくて、苦しくて・・・
涙が堪えられず、手に力を込めてしまう。


「サ・・・クラちゃん?」
ナルトのかすれた声。

「ナルト・・・」
「?」
「戻ってこられない方が、幸せ、だった・・・?」

「サクラちゃん・・・」
顔を上げたナルトも泣いていた。


「私、向こうの世界で両親がいなくて最初は喜んでいたの。だけど段々と寂しくなって、一人で暮らすことの大変さを知ったわ」
「・・・・・・」


「こっちの世界の公園で、ナルトにひどいこと言ったわ・・・。あんなこと言ってごめんね」

「いや、俺もだよ」
涙を拭ってくれるナルト。


「向こうの世界で俺、サクラちゃんにひどいこと言った。ごめん」
何か考えているように少し目を閉じた。


「俺はこっちの世界に戻ってこられて良かったってばよ」
優しく笑うナルト。


「ナルト・・・」
「サクラちゃんに寂しい思いしてなんか欲しくないからな!」
「ナルトは!?」
「え?」

「ナルトはこっちに戻って来たら・・・両親はいないじゃない」


「俺はもう、一人に慣れているから」
また優しく笑う。



なんて悲しい顔するんだろう。
思わずナルトの腕をつかむ。

「サク・・・」
「慣れたりしたらダメ!それにナルトは一人じゃないわ!」

「私が・・・」


「私たちがいるじゃない!カカシ先生もイルカ先生も、ヤマト隊長もサイもシカマルも・・・みんないるじゃない!」


「だから・・・だからそんな、一人に慣れているからなんて悲しいこと言わないでよ!!」




腕を引かれ、抱きしめられた。
ナルトの肩越しに見える、里の灯りがキラキラしていて、それがまた胸を締め付けた。
涙で視界が歪む。

「ごめん・・・」


ナルトがポツリと言った。
消え入りそうな、胸に突き刺さる、小さな声だった。



「ナル、ト・・・」


顔上げるとナルトの顔がすぐ近くにあった。


涙が止まらない。


ナルトの顔が近付く。

吐息がかかってビクッとしてしまう。

ナルトがハッとしたように離れる。

「ご、ごめん・・・」


申し訳なさそうな顔。


違う。

違うの。


そんな顔させたかったんじゃないの!

「ナルト!」
私はナルトの腕を引いて抱きしめた。


「ナルト・・・」
「・・・・・・」


ナルトの腕がゆっくりと、背中に回ってくる。

「ナルト・・・」



「サクラちゃん・・・もっと呼んでくれってば・・・」

「ナル・・・ト」
「もっと・・・」

「・・・ナルト」
「もっとだ・・・」


「ナルト」
指先に力がこもってキツく抱きしめられた。


肩が震えている。

私はこれから、自分の気持ちをどう伝えたらいいのか分からなくなっていた。

−END−



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